月夕~GESSEKI~(満員御礼!ご来場ありがとうございました!) 公演情報 どて劇団「月夕~GESSEKI~(満員御礼!ご来場ありがとうございました!)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    想像を絶する結末
    今までの観劇人生の中でこのような始まりの暗転があっただろうか?終盤になって序盤に撒かれた伏線が想像を絶する結末への仕込みだったことに気付き、愕然とする。その描写はあまりにも強烈だった。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    聡と光一は工場の社長に給料未払いの抗議をしている場面から舞台は始まる。しかし舞台は真っ暗で何も観えない。3人の争う声と、光一の妹・夕貴の恐怖の声しか聞こえてこない。そして金属バットを叩きつける音。絶叫する声。泣き叫ぶ声。人が倒れる音。そして入り乱れる声。声。声。

    このように目の前の抗いを声だけの演出でのみ表現する方法は実に効果的だと思う。目の前で起こっている状況を声を頼りに想像するしかないからだ。そうして誰もが、聡が社長を殺してしまったかのように想像した。

    その事件から15年たった今、刑務所から出所した男は光一だった。この時点で光一が聡の身代わりになって服役していたかのように思わせる。やがて光一は服役後、故郷に帰ると状況は一変していた。かつての自分たちの仕事を奪ったナルミグループの御曹司との結婚を控えた妹。そしてその妹は光一の元恋人・香奈枝の現在の男を「お兄ちゃん」と呼ぶ。

    15年前の真実を知る幼なじみの聡は真実を打ち明けてしまいたそうな表情をするも光一はこれを止めて頑なに秘密を守る。そして光一は妹の結婚の邪魔にならないよう、他人のフリをして生きることを決意するのだったが、そこにかつての刑務所仲間の男が現れてから、一気にデンジャラスな香りが漂い始める。

    さまざまな真相や人間関係が霧が晴れたように明らかになっていく中、一番のクライマックス、15年前に社長を金属バットで殴り殺してしまったのは当時4歳だった夕貴だったのだ。序盤に撒かれた伏線が魔術のように繋がる瞬間だ。

    後半から終盤にかけてのさまざまな人間関係の描写は涙なしでは観られない。誰かを守るということ。誰かを思いやるということ。想うだけで愛しさが溢れるということ。その人がこの世に生きているというだけで癒され安心し満たされるということ。大切な誰かがこの先悲しみに泣くことのないように全ての涙を吸い取りたいと考えること。

    これらの描写は目の前に広がる想像の海のごとくキラキラと眩しく輝いていた。波の音も潮の香りもあまやかにさえ思える。優しげで温かみがあって愛情に満ちていた舞台だった。
    そうしてワタクシの目には、うっすらとガラスの膜がかかったようにとめどもなく涙が張られるのだった。その波に揺らぐ舞台の幕引きはあまりにも美しい。

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    2010/05/21 12:14

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