ミブロ! ~新撰組転落記~ 公演情報 劇団バッコスの祭「ミブロ! ~新撰組転落記~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    大胆な解釈・構成・メッセージ性
    2歳のとき、初めて映画館で観た映画が東映時代劇、昭和30年代の東映時代劇映画は、大人に混じってリアルタイムでほとんど全作品を観てきた私は、筋金入りの時代劇ファンだが、いや、だからこそ、最近のTV時代劇はあまり観たいと思わないし、たまに観ても満足できない。小劇場の時代劇もおもはゆくてむしろ苦手なジャンルだ。「殺陣がスゴイ」「役者がステキ」と聞いても、まず食指が動かない。
    その私が唯一楽しめるのが「バッコスの祭」なのだ。小難しい時代考証なんかすっ飛ばして、大胆な解釈・構成で突っ走る爽快さがたまらない。
    やたら時代考証にうるさい自分が、「いいぞ、うんと壊せ!もっとやれやれ!」と心の中ではしゃいでいる(笑)。
    しかし、森山智仁という人は、史実の肝はきちんと押さえ、明確なメッセージを伝えてくるのが流石だ。
    私はいまから何十年も前に日本史が好きという単純な理由で史学科に進んだ、いまどきの「歴女」の草分けで、高校生のときは毎日「新撰組」のことばかり考えていて親に怒られたクチ。当然、本作には興味津々だったが、前回の「忠臣蔵」に続いて、また泣いてしまった。私は芝居を観てもまず泣かない、というより映画と違い、芝居では泣けない人間なのだが。
    中盤で、涙がポロッとこぼれ落ちて焦った。「芝居はまだこれからだぞ、いまから泣いてどうする!」自らを叱咤し、舞台に目を凝らした。そしてラストシーン。うーーん・・・・巧い!脱帽である。
    時代劇や日本史に興味ない人にもおススメです。

    ネタバレBOX

    冒頭、斉藤一役の丹羽隆博が新撰組について回顧するように語り始めるが、これには仕掛けがあり、ラストにつながる。
    入隊希望の藤堂平助が「新撰組」屯所を訪ねてきて、股旅物の仁義を切るのには唖然。こりゃないだろと思ったが、それは壬生にいた当時の新撰組がまるで暴力団のような存在だったデフォルメなのかもしれない。
    今回、新撰組に不可欠の土方歳三が出てこないが、それは、この物語のテーマに関係がある。斉藤は「自分の行く道をなかなか決められない男」、彼が主役だから。そして、「局中法度」で「事の善悪、各々にて思案すべからず」と、隊士にいらぬことを考えず、人斬りに徹するよう仕向けたこの集団において、斉藤は忠実に動いたのである(本作では)。
    組織に忠実という点では土方が一番だが、土方は積極的に隊のシステムを考えて動き、最期まで次々に決断して行った男だから、土方を出すと今回のテーマを明確にできないのだろう。このあたりの思い切った決断は見事で、森山は土方並みの非情さをもって作品に取り組んだと言えよう。今回の設定に私が反発を感じないのは、森山が司馬遼太郎の「燃えよ剣」を読みながら「土方の扱いをどうするか」と思案していたことをブログで読んで知っているからである。決して単純なご都合主義の削除ではないのだ。
    土方を廃した代わりにと言っては何だが、斉藤一に土方的なニヒルな面を入れ込んで土方ファンのガス抜きをしているとさえ感じた。
    丹羽の何かに取り憑かれたようなアブナイ演技を見ていると、ふだんはどんな人なのか興味が湧いてくる(笑)。
    近藤・斉藤と対立する芹沢鴨(上田直樹)は史実とは反対に、草食系男子で、芹沢というより、むしろ本作には出ない穏健派の山南敬助に近い。
    そして山南とも共通する文系論客だった伊東甲子太郎と同一人物にする、これまた大胆な創作も面白かった。
    沖田総司(雨宮真梨)の青白い魅力が良かった。雨宮は口跡が良く、目ヂカラがある。沖田が初めて人を斬るという興奮のさなか、女を斬ってしまうというのも、史実ではない別のリアルさがあった。
    その女、お雪(濱坂愛音)は京の町の女子アナ?兼大和屋のお内儀で、妻を殺された主人(小林裕介)は伊東一派を支援する。小林は短い出番だがこの役らしく実直な演技で印象に残る。
    藤堂平助の辻明佳は明朗な爽やかさを出して好演。いままでバッコスで観た役どころとは違い、とても新鮮だった。
    藤堂の母親(柿谷広美)のいまふうお母ちゃんぶりが笑える。松本良順(稲垣佳奈美)をお良という女医にしたり、恋愛場面をお梅(金子優子)に絞って、よけいな恋愛噺を入れなかったのも名案。
    近藤勇(石井雄一郎)は幕府に使い捨てにされながらも、容保に深々と頭を下げ、幕府への想いを表現する場面がよかった。
    今回、近藤勇役の石井と斉藤役・丹羽のクセ者?コンビの芝居が観られたのも嬉しい。セットの関係もあるのか、松平容保(小澤雄志)が会津藩邸に隊士を呼びつけず、まるで鬼平の長谷川平蔵のように着流しで気軽に自ら出向いてくる(笑)。小澤は森本レオと長谷川朝晴を足して2で割ったように飄々としている。
    山崎烝は、俳優の宇佐見輝に不満はないが、どうせなら監察方という史実を生かして描いてほしかった。
    原田左之助の飛山裕一は槍の使い手ぶりを発揮。
    服部武雄(深月要)は若年だが剣の腕が立ち、史実では伊東甲子太郎にとって、武市半平太の岡田以蔵的存在だったようだが、本作では新撰組内の剣の流派の対立が離反組を生んだという史実も踏まえている。「深月要って人は男?女?」という疑問が観客に湧くらしく、隣席でも話題になっていたが答えは女性です(笑)。彼女をバッコスに紹介したのは私だが、主宰は殺陣が得意な彼女の長所を生かして起用してくれ、深月自身も期待に応え、他劇団に出ていたときは見違える成長ぶりで驚いた。主宰をはじめ劇団員・スタッフ、客演陣に感謝です。
    終盤、出番のない俳優たちが官軍側を黒子姿で演じたのにも感心。すっぽり顔を隠した状態での激しい殺陣は見事。女優陣の着付けが前回より数段、きれいになっていた。
    ラスト、東京高等師範学校・卒業式での斉藤の訓辞は、生徒だけでなく現代の観客へのメッセージにもなっている。そして隊規に忠実だったであろう隊士全員の心情をも代表していると思う。生徒たちの「仰げば尊し」の斉唱も美しくそろっていて素晴らしかった。

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    2010/05/17 13:46

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  • tetorapackさま

    >バッコスの祭への、きゃるさんの思いや、舞台表現上の森山演出への評価と純粋な意味での思い入れ、そして、作品の素晴らしさに対する自然体としてのきゃるさんの印象など、その総和によって、一人の人間として、感動の涙を流されたということでしょうか。

    あ、まさにそうです。恐れ入ります(笑)。

    >逆に言えば、映画やTVドラマと違って、真の等身大を観ることができる、ということですね。でも、こういう魅力がたまらないんで、私も演劇が好きなんです、きっと。

    ああ、きっと、そうなんでしょうねぇ。良い芝居は確かに不思議な感情が働きますねぇ。私の場合、舞台だと、あまり物語に入りこめなくて「この俳優はどう動くかな」なんて引いて観ちゃうので、映画だと物語の虚構が気にならずに泣けるけど、舞台だとめったに泣けないんですよね。
    わたしは、宝塚なんかでも、好きな演出家作品だと泣いてしまう傾向があります(そういう作・演出家は高齢で引退、もしくは逝去されて、いまはいません)。
    「生の魅力」といえば、大昔、小学生のときに林与一の芝居を観に行ったら、あまりにステキで毎日プログラム開くくらい夢中になったんだけど、大人になって仕事場で会ったら、カリスマ性が消えて、やたらファンに愛想のよい普通のおじさんになってて、ガッカリした。「え?この人があの・・・」みたいな(笑)。その後、彼主演のアチャラカ時代劇に知人が出演してたので観に行って、ますます失望。で、昭和40年代の旧作映画会観に行ったら、来てた人たちが「このころの与一はもの凄く良かったのにねぇ」と言っていて、「ああ、やっぱり」と納得。俳優には旬というものがあり、歳月は残酷です(笑)。

    2010/05/17 18:13

    きゃるさん

    >あ、私情は抜きで芝居で泣いたんですよ。前回も、知人は出てなかったけど、泣いた(笑)。

     はい、分かります。私は私情は抜かなくてもいいと大いに思いますが(笑)、バッコスの祭への、きゃるさんの思いや、舞台表現上の森山演出への評価と純粋な意味での思い入れ、そして、作品の素晴らしさに対する自然体としてのきゃるさんの印象など、その総和によって、一人の人間として、感動の涙を流されたということでしょうか。まあ、私なんぞは、話をするような役者さんは何人かしかいませんが、その人が心にしみる演技をしてくれると、無条件で嬉しくなったり感動したりしてしまうタイプですが(笑)。

     私の方にも書きましたが、それにしても、こういう感動って、やはり「生」で演じる舞台芸術ならではの大きな魅力ですよね。演じている、あるいは演出している等身大の姿しか観ることはできないし、逆に言えば、映画やTVドラマと違って、真の等身大を観ることができる、ということですね。でも、こういう魅力がたまらないんで、私も演劇が好きなんです、きっと。

    2010/05/17 17:43

    tetorapackさま

    >私の方に頂いたコメントを読めば、よく分かります。私もその立場だったら、同じだったと思いますもん。

    あ、私情は抜きで芝居で泣いたんですよ。前回も、知人は出てなかったけど、泣いた(笑)。

    2010/05/17 15:24

    きゃるさん

    コメント楽しく読ませて貰いました。

    >最近のTV時代劇はあまり観たいと思わないし、たまに観ても満足できない。小劇場の時代劇もおもはゆくてむしろ苦手なジャンルだ。「殺陣がスゴイ」「役者がステキ」と聞いても、まず食指が動かない。

     私もTVドラマでは、全くと言ってよいほど観ないですね。まあ、TVはニュースとスポーツ、NHKのクローズアップ現代とか世界の紀行、あとケーブルでディスカバリー・チャンネルとかCNNとか以外は見ないので。

    >小劇場の時代劇もおもはゆくてむしろ苦手なジャンルだ。「殺陣がスゴイ」「役者がステキ」と聞いても、まず食指が動かない。その私が唯一楽しめるのが「バッコスの祭」なのだ。小難しい時代考証なんかすっ飛ばして、大胆な解釈・構成で突っ走る爽快さがたまらない。
     やたら時代考証にうるさい自分が、「いいぞ、うんと壊せ!もっとやれやれ!」と心の中ではしゃいでいる(笑)。

     私の場合は、しっかり描き上げている芝居も好きですが、この「バッコスの祭」は今回2回目の観劇ですが、すごく楽しくて、また、勢いを感じられ、好きですね。私の方では、そんな感じを「バッコス流」と書かせて貰いました。

    >中盤で、涙がポロッとこぼれ落ちて焦った。「芝居はまだこれからだぞ、いまから泣いてどうする!」自らを叱咤し、舞台に目を凝らした。

     私の方に頂いたコメントを読めば、よく分かります。私もその立場だったら、同じだったと思いますもん。

    2010/05/17 15:16

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