オペラ「THE SPEECH(ザ・スピーチ)」東京公演 公演情報 劇団★ポラリス「オペラ「THE SPEECH(ザ・スピーチ)」東京公演」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    田中角栄の半生を音楽と浪曲で紡いだ音楽劇にして異色作。オペラと謳っているが歌と音のコラボレーション<出演がポラリス歌組と同 音組で構成>。

    田中角栄の濁声を実際聞いたことがあれば、何となく似せていることが分かる。彼の独特な声色は、幼少期に吃音だったことが遠因のよう。吃音を治すために浪曲にハマったという紹介、そこから劇中 浪曲が披露される。楽器は上手から(大)太鼓、三味線、チェロ、ヴァイオリン、ピアノと並び、しっかりと三味線の配置を浪曲<浪曲師の上手後方>に合せている。ちなみに浪曲の演目は、「天保水滸伝」で〈義理〉と〈人情〉を謡い、角栄の政治活動<スタイル>に重ねる。歌と音であるが、木村多江さんが語りとして要所要所ー例えば 角栄の母フメの言葉などーで紡ぐ。

    音組以外は 全て男性出演者。多くの民衆を表すのも上下黒服の男性群、特徴を持たせず同じ歌<合唱>や踊り<群舞>を演じる。そこに 角栄のスピーチによって一挙手一投足、同じ方向を向く群(愚)衆を観るようで滑稽だが怖い。

    物語は 角栄半生と記したが、概ね 上京し政治家になってからロッキード事件で逮捕される前まで、いわゆる政治家として成功を収めた頃を描いている。必ずしも品行方正といった描きではなく、後々 事件に結び付くような金権政治手法が垣間見える。群衆の黒服に札を貼り付けるといった象徴(皮肉)的な観せ方が巧い。そもそも国<民衆>も高度成長期〈田中内閣が新政策の柱にすえた「日本列島改造論」は金融緩和で進行していた企業の土地投機を煽り、土地転がし、マンション投機などへエスカレート〉で浮かれていたかも知れないが…。
    (上演時間1時間30分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は 後ろに音組の楽器、真ん中に演壇が置かれている。

    冒頭 田中角栄が生まれた新潟県、その雪深い風土を表す照明…後壁の全面に雪が降っている印象深い光景<後景>。そして三国峠の道路再開発によって、といった選挙演説を重ねる巧さ。上京する際、母から拾円を渡され、3つの約束を誓わされる、それを木村さんのナレーションで紹介する。生涯 頭の上がらなかった母とのエピソード、それが物語の随所に表れる。

    途中に浪曲の披露…演壇にテーブル掛けで田中角栄のスピーチとどう絡むのかと思っていたが、違和感はない。逆に吃音を治すために好んだと説明され、不思議と納得した。それがフライヤーにある「日本を熱狂させた 伝説のスピーチ」という謳い文句になる。勿論 政治手法に絡めた義理と人情、そして官僚の人心掌握術に絡める。

    田中角栄がなした実績の数々の紹介、その熱き思いと行動力を称賛するような描き。ポラリス歌組のメンバー6人が田中角栄を演じ分け、場面に応じて他のメンバーが政敵になる。キャストの衣裳は同じで、外見で違いは現さない。そこに田中角栄という人物の一貫性を表現する拘り。

    舞台技術、音組は太鼓・三味線という和楽器とチェロ、ヴァイオリン、ピアノの洋楽器の組み合わせ、それに男声合唱で聞かせる。照明は冒頭こそ雪景色をイメージさせるが、それ以外は赤・青といった色鮮やかな原色を後壁一面に照射する。そして舞い落ちる紙雪で抒情的な雰囲気を醸し出す。演奏・合唱・ダンスが「田中角栄」の物語を彩る、そのエンターテインメントは見事。ラストは裁判に際しての言葉が…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/03/26 15:57

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