実演鑑賞
満足度★★★★
神父と死刑囚、神父と老女、神父とある母親(石田ひかり)…というように、人を替えながら常に神父の1対1の対話が続く。禁欲的というか愚直というか、かなりシンプルな作劇術である。中心は神父と死刑囚の対話である。最初は「俺は神だ」という死刑囚の話を信じられないが、彼の予言が次々に実現し、果ては教会にも現われる(ここのダイナミックなセットくずしは驚いた)。そして、神父の偽善を抉り出し、さらには……。後半になるほど面白みが増した。
いつのまにか舞台美術の左右には、裁判の女神の天秤が大きく吊り下げられている。あえて主題を言えば、人が人を裁く(死刑にする)ことの不条理だろうか。宗教と信仰が主題という考えは当たっていない。宗教について思索を深めるようなところはなかった。とはいえ、前半は死刑囚の言葉が裏付けられていく意外さ、中盤は偽善と悪をめぐる死刑囚の神父に対する追及、最後は伏線が回収されていく展開の面白さと、それぞれ異なる面白さだった。最後、物語の面白さを優先したために、主題に収斂していかないところがある。