おるがん選集 春編(上演台本付き/カフェ営業あり)  公演情報 風琴工房「おるがん選集 春編(上演台本付き/カフェ営業あり) 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    藤-風情のある会場にて
    ルーサイトギャラリーのことは以前、TVの情報番組で知ったが、詳しく場所が紹介されず、開館されていない日もあるとのことだったので、行く機会もないままになっていた。今回おるがん選集の会場がそこと聞いて、大変嬉しく、早速予約した。
    建物の持ち主だったという芸者さんは元祖美人歌手の市丸姐さんのことだった。お若いかたは市丸という芸者歌手をご存知あるまいが、わたしは生の歌も聴いたし、一度だけお会いしたこともある。父の学生時代の友人がレコード歌手をやっていて、その人のスポンサーが市丸さんとも親しく、うちの隣家に住んでいた関係で、リサイタルのお祝いに行った。そのとき、市丸さんがゲストで来ていた。昭和32,3年ごろだったと思う。当時、わたしが熱中していたのは日本髪の女性の絵を描くことだったため興奮して、楽屋の艶やかな市丸さんの傍を離れず、市丸さんは自分の簪を抜いてわたしに見せながら、「お嬢ちゃんはよっぽどこういう物が好きなのねぇ。大きくなったら、いくらでもお着物着れるし、簪も付けられるわよ」と言われて期待に胸がふくらんだものだ。そんなことを併設のカフェで懐かしく思い出していた。
    今回は、桜、藤、両公演とも続けて観劇した。まずは「藤」から。

    ネタバレBOX

    太宰治の「親友交換」。太宰がモデルであろう津島(浅倉洋介)という作家が、終戦直後、田舎に帰っているところへ、幼馴染だと言ういけずうずうしい男・平田(好宮温太郎)がふらっと現れ、支離滅裂なことを言い散らかし、応対を強要した津島の奥方(松木美智子)にも悪態をつき、ウィスキー、毛布、金、タバコ、いろんなものを略奪同然に受けとり、酔っ払って帰っていく。
    結局、平田は金や酒を無心しに来たのであり、津島の旧友というのもたぶん口から出まかせなのだろう。しかし、終戦直後のどさくさにはこういうでたらめな嘘を言って縁もゆかりもない他人の家に上がりこみ、「押し借り」という悪事をはたらく者が多かったという。それほど、終戦は世相が混乱していたということである。終戦からだいぶたった私の幼いころでさえ、こういう輩はいて、家にもやって来た。父の知人を装って戦時中の話をし、事情を知らない母が金品を渡してしまったこともあった。
    好宮は、こういう「どさくさ男」のうす気味悪さをよく出していたが、時折、ふとした瞬間にこの役ではなく、現代人のような表情をしてしまうのをわたしは見逃さなかった。残念。玉に瑕です。
    浅倉は、この時代の人物がとてもよく似合っていた。
    カフカの「流刑地にて」。判決文の紙を機械の中にセットすると、自動的に罪状を囚人のからだに刻み付けたうえで殺害するという「人の胴体型」をした実に残酷な死刑執行の機械の話。
    流刑地を訪れた旅人=外国の皇太子殿下(五十嵐勇)と従者(松木美智子)は、そこの裁判官だという将校(浅倉洋介)から、その機械の説明を受ける。機械はこの国の前司令官が考案・施行したものだという。
    将校は殿下に処刑を見学するように頼むが、殿下はこの刑罰制度に反対の考えを述べる。全否定されたと解釈した将校は刑の執行を待っていた囚人(好宮温太郎)を放免し、手に持っていた「正義をなせ!」という判決文の紙を機械部品にセットし、機械のある別室に入っていく。たぶん、機械の中に入り、自らの刑を執行したのだろう。
    この芝居のもうひとつの主役はこの機械の立体設計図。詩森さんによれば、専門家に製図してもらったそうだ。著作権料の関係でダメだったのかもしれないが、願わくば、当日のお土産台本に図版として入れてほしかった。
    役名は「旅人」とは言え、軍服の将校、ジャケットを着た従者に比べ、殿下の衣装だけがいまふうのニット・カーディガンというのが気になった。ミリタリー調の感じを出すマオカラーのジャケットでも着てほしかった。

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    2010/04/30 22:35

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