実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/03 (金) 14:00
座席1階
つかこうへいの名作。プロジェクト・ニクスが扱うとどうなるかなと考えながらスズナリに来た。当然なのかもしれないが、ニクスがこれまで売りにしてきた「美女劇」とは趣を変え、この劇団が新たな挑戦をしているように感じた。
学生運動は、その時代をリアルタイムに感じてきた年代と、自分のようにそれ以降に生まれた年代とは決定的に受け止め方が違うと思う。この舞台では、最初に用語集の解説があるなど異例の展開でその溝を埋めようとしたが、やはり舞台へのパッション、含蓄あるせりふへの理解度など溝を埋めるには及ばなかったのではないか。中島みゆきの「世情」には少し心を揺さぶられたが、「シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく」をリアルで経験していないのは決定的だ。
終幕の拍手に力が入ったお客さんは大多数が初老の世代。いつものニクスの舞台のお客さんとは明らかに違っていた。
ニクスらしい見せ方もあった。幕あいのところで若い女性看護師さんが白衣姿で歌い、踊る場面などはインターミッションとしてうまい盛り上げ方だった。
安保闘争や三里塚闘争など、当時の学生たちは政治に怒りをたぎらせ行動に出た。機動隊は権力の象徴として描かれているが、本当の政治権力は国会議事堂や永田町の中でかすり傷一つ負わず、平然としていたのだ。結局、学生運動は政治の流れを大きく変えることはできず、日米安保条約は今も継承され、成田空港は開港する。その後の世代はシラケ世代とか無関心世代とかやゆされるが、前世代の若者たちの挫折こそが、政治への無関心、もはや政治への怒りの表出すらあまりない世の中につながっている。そう考えると、この世代が、パッションが失われた反動による無関心という大きな負の遺産を残したと言わざるを得ない。舞台ではそういうところに触れた部分はないのだが。
世代の感覚もじゃまして、飛龍伝には心から感情移入はできなかった。これは、他の劇団による舞台を見ても、きっと変わらないだろうと思う。