実演鑑賞
満足度★★★★★
理想(使命)に燃えた過去を美しく飾りながら、理想だけではない人間の切なさ弱さを肯定し、そこに帰っていくロマンと癒しの物語。60年代に命を張って対峙した 第4機動隊の山崎一平(近藤弐吉)と学生運動闘志熊田留吉(ラサール石井)。67年11・26で山崎の思い人にして熊田の愛妻(ここがややこしい)サヨコが死んで13回忌を迎える年、二人が語り合う。理想(使命)に燃えて熱く行動し、それゆえに深く傷ついた過去と、消えそうな情熱を必死に保ち続ける今を、言葉だけで立ち上げる。見事な前期つかこうへいワールドである。
客席は頭が白くなりだした男性客が多い。「1979年に京都〇〇会館で見て以来」と話している男性客もいた。
現代の観客にこの熱いロマンの劇を届けるため、構成・演出をかなり工夫している。
まずダンディーな4人のフォークソングで幕開け。この4人がガイド役になり、闘争用語(安保、日和る等)・闘争史を解説し、全学連と機動隊のファッションを解説。東大闘争の安田講堂攻防戦の映像に中島みゆき「世情」を重ねて、観客も70年代になじんでいく。
第一部は山崎一平が全学連のバラ・サヨコを自宅にかくまうロマンスから。しあk氏初戦対立する者同士。、1967年11月26日、サヨ子はデモで山崎の警棒に滅多打ちされて死んでいく…。その学生デモ隊と山崎の殺陣のバックに流れるのは、ベルディ「レクイエム」の「怒りの日」。ぴったりだった。
次の幕間は「ワルシャワ労働歌」久しぶりに聞いた。今はとても歌えない血なまぐさいゴリゴリの歌。びっくりした。
第二部はその12年後、熊田留吉が家で投石を磨いている。冒頭の、暗転の暗闇でグラインダーの火花が飛ぶシーンは圧巻。留吉はかつてジュラルミンの盾も打ち破る名石・飛龍の使い手だった。三里塚闘争(11・26という山崎と食い違いがある)の中で妻サヨコを失い、自らは恐怖に駆られて何度も逃げ、今は磨いた投石を、娘・アイ子に売らせている 。熊田・ラサール石井の ダメ男ながら可愛げのある辺りが見どころ。 膨大なセリフを来なしているのはさすが。ここに、かつて熊田のせいで肋骨を一本失った山崎が訪ねてくる。「初級革命講座」では熊田と山崎の 互いに競い合い、ぶつかり合いつつ、認め合う関係が軸になる。、90年代以降の「飛龍電」は熊田がいなくなり、全学連の女委員長神林美智子と山崎一平の純愛を歌う全く別の物語になった。
とにかく顔で怒って背中で泣く歌舞伎的つか美学と、「モア・パッション、モア・エモーション」の情念とユーモアを、構成もセリフも音楽も照明も駆使してよみがえらせた。70年代の挫折の美を、現代に合わせて見事にバージョンアップさせた舞台だった。