炎の人 公演情報 劇団文化座「炎の人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    三好十郎の1951年の作品。タイトルだけは知っていた。思えばゴッホ自体、知った気になっていただけでよくは知らない。有名な人が誉めるので偉い人なんだろう的な位置。ちょこちょこエピソードは聞いているし、絵のド迫力は黒澤明調(展覧会を観に行ったこともあった)。アレクサンドル・ドヴジェンコの映画の冒頭、大写しの向日葵が爆撃で吹っ飛ぶ。この判り易さがゴッホ=黒澤明だな、と思ったことがある。黒澤明は『少年ジャンプ』的な大衆を熱狂させる“表現”で天下を取った男。伝えたいものをどこまで判り易く伝えられるか?ゴッホも太陽のような情熱で身を滅ぼしてまで絵の具を塗りたくった。

    陰鬱な話の中、アルルの娼婦ラシェル役の原田琴音さん(佐々木愛さんの孫娘!)が明るく踊り出すシーンが美しい。ゴーガン(白幡大介氏)はジョニー・デップ調でカッコイイ。ゴッホ(藤原章寛氏)と同棲する子持ちの娼婦で絵のモデル・シィヌ(小川沙織さん)も印象的。

    ネタバレBOX

    ある意味壮大なコントのようにも見えた作品。大真面目に狂った言動行動を繰り返すヴィンセント・ヴァン・ゴッホ役の藤原章寛氏はインパルスの板倉俊之のようにも見えた。(逆にこの系の作品を元にして出来たコントもあるだろう)。彼の度の超えた狂いっぷりは泣き上戸の酔っ払いにひたすらしつこく絡まれてうんざりする気分に観客をさせてくれる。しかもこれを観て、ゴッホに憧れる人もいないだろう。

    そう思うと不思議な作品だ。日本人の国民性として芸術家が発狂、もしくは自殺すると敬う流れがある。島田清次郎や太宰治、ニーチェに大江慎也。何か突き抜けて向こうの世界にまで辿り着いた天才職人として。
    但し、ゴッホを評価されなかった者として観ると、地獄のような話。劇団やバンド、お笑いや自主映画、高等(?)遊民として日々を送る多数の者達は皆背中合わせの暗欝を抱え込んでいる。

    三好十郎自身が本気で画家を目指していたこともあり、ラストはゴッホに花束を捧げて終わる。不思議な構成。

    第一場、ベルギーの炭鉱地帯、ボリナージュ地方プティ=ヴァムの村。伝道師として働くヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。貧しい人達への共感からキリスト教に否定的になり共産主義的な方向へシフト。伝道委員会から解雇される。このプロレタリア文学のような描写が素晴らしい。ゴッホはキリストのように生きようと努めている。

    第二場、オランダの首都ハーグにて子持ちの娼婦と同棲しているゴッホ。彼女をモデルに絵を描いている。弟からの仕送りに頼った貧しく惨めな暮らし。娼婦は「集団便所」となじられる自身を卑下する。

    第三場、パリの画材屋タンギーの店。写実主義を否定した印象派絵画、更にその先を目指したポスト印象派の画家達の溜り場。明るい鮮やかな原色の色使い(暗示的色彩)を始めるゴッホ。

    第四場、フランスの南、地中海に面したアルル。絵を描きながら意識を失うゴッホ。

    第五場、アルルの黄色い家でゴーガンと共同生活を送る。二ヶ月しか持たなかった。水色のアブサンを二人でガブ飲みするのだが、本当にガブガブ飲んでいる。水にしてもかなりの量。ゴッホにひたすら絡まれるゴーガンが実に気の毒。

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    2023/01/15 07:56

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