ある生き物 公演情報 中央大学第二演劇研究会「ある生き物」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    学生演劇は あまり観ないが、「舞台の演出の都合上、一部暴力的、性的な描写が含まれますが、ご容赦ください」の文句に惹かれ、どこまで描くのか興味津々だった。
    典型的なノワール劇で、野球で言えば速球のストレートプレイであり、変化球はない。冒頭と最後のシーンから、もしかしたらと思ったが、力で押し切った感がある。

    さて、観劇回以降は「座組内に体調不良者が出てしまったため、誠に勝手ではございますが、本日18時からの公演を中止とさせていただくこととなりました。」とある。観応えのある公演だけに残念だ。
    (上演時間1時間40分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、比較的小さな劇場にも関わらず、しっかり作り込んでいる。舞台となる「アンリーブモン糸井」というアパートの一室。全体はオフホワイトの壁に囲まれ、中央に出入り口、上手側は押入れ、トイレと浴槽の順、中央は畳敷きに卓袱台、下手は台所がありシンクや食器棚が置かれている。上部には引き戸<窓>のような。実はこの狭い場所から出入りし、室内に飛び降りるシーンが何回かあり、緊迫と躍動感を生む。

    児童養護施設出身の少年 宿内真己22歳が主人公。冒頭はカメラを三脚に付け自撮りしているシーンから始まる。いずれは映画製作をしたいというのが夢である。ある日、彼はアパートの管理人で隣室の糸井ひば里36歳の息子を自室に連れてくる。息子は発達障害児のようで言葉や体が少し不自由である。母親は息子を虐待しているのか、時々叫び声が聞こえ助けたつもりでいる。真己と少年は一緒に暮らし始める。虐待と思われる行為が熱湯をかける、フライヤーの赤い背中がそのイメージである。

    ある日、養護施設の施設長の丸岡田五郎がやって来た。そして田五郎は少年を母親のもとへ返すように説得するが、真己はこれを拒み…。
    物語は真己が少年に優しく接し、穏やかな日々を過ごす場面と、母親の狂気や丸岡との遣り取り、更にどこから話を聞きこんだのか、人の弱みに付け込んだ悪徳金融の出現など、緊張と緊迫ある場面の緩急ある展開が観る者の関心を引き付ける。

    少年がいなくなったことを自らリークした ひば里はその情報提供の見返りとして報酬を得る。人の意地汚い根性と社会 正義面(づら)したマスコミを糾弾するかのような描き、その両面を見事に切り取っている。真己が何となく同じ境遇<親からのネグレスト>の少年を助けたいといった単純な行為が思わぬ方向へ…。

    段々と追い詰められていく怖さ、それは自分の独善と人の悪意、社会<世間>という顔なき存在に脅かされての成れの果てのよう。その結末は捻りもないストレートな、そう誘拐犯として逮捕というもの。鳴り響く教会の鐘の音ー荘厳な音楽を聞くような印象だ。
    実は、終盤にマスコミ<逮捕までの実況中継>が入ったあたりで、冒頭の自撮りシーンによる劇中劇のような結末をも連想したが…。それによって劇風が悲劇にも喜劇にもなる、そんな奇知も感じさせる秀逸な作品。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/01/15 07:35

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