農業少女 公演情報 東京芸術劇場「農業少女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    多部未華子の好演が光る
    「農業少女」という作品を初めて観たのは5年前、明治大学の学生劇団「劇団螺船」においてだった。この劇団は長年にわたり現代演劇の秀作を数多く上演しており、見逃した話題作にも出会える楽しみがあり、私のような者にとってはありがたい劇団だったが現在は活動休止中らしい。
    「螺船」の公演のときは、当日パンフが「都市農業説明会」のパンフを兼ねており、入場するとすぐに「どうぞ」とウーロン茶の入った紙コップを差し出された。これが後の「健康に良いと言って飲んだ毒の入った飲料」の伏線になっているという趣向で、気のきいた演出だった。「螺船」は野田版に近い演出だったと聞く。今回は松尾スズキらしく楽しい趣向があるが、そのぶん「螺船」より筋がわかりにくく感じられ、テーマがすんなり頭に入ってこなかった。
    人気公演らしく、平日の昼にもかかわらず席は完売。
    雪の降った翌日でまだ冷え込みが残っているというのに、冷房が入っているかのごとく空調が寒く、途中で思わずコートを着た。
    私はかねてから「農業少女」のヒロインには多部未華子が合っていると思っていたので、今回の配役が発表されたときは、わが意を得たりだった。
    事実、多部は生き生きと好演している。

    ネタバレBOX

    開演直後、「こんにちは」とやけに明るく感じの良いスタッフが入ってきたと思ったら多部未華子本人だった。「都市農業」についての説明会チラシを上手側最前列客に配る。中央部最前列の客には主催者・都罪=ツツミ(吹越満)の秘書役の江本純子が配る。ミーハー目線で言えば、このとき間近で観た「多部ちゃん」はとにかく可愛い。
    舞台上手側のTVモニターに舞台稽古の模様が映ったり、山崎一の以前の出演CMの映像が流れて本人が照れたり、蟻に扮した野田秀樹本人が映って「新作の台本も書かずにサボってる」と吹越が突っ込みを入れたり、多部が山崎を見て「石田純一?」とソックリネタを振ったりで、客を笑わせる。
    家出少女(多部未華子)と列車の中で知り合った毒草の研究者を名乗る山本ヤマモト(山崎一)と少女を商売に利用する都罪との対立。
    「都罪」という名前からして象徴的だが、少女は都罪の怪しげな仕事にかかわり、米の新種「農業少女」の宣伝キャラクターとなり、都会生活の中で都会の毒に染まっていく。ヒットラーを例にとったファシズムや大衆の情報操作批判などもからめ、山崎、江本、吹越が1人何役もこなしながら物語が進んでいく。
    江本を観るのは実は今回が初めて。毛皮族などの扮装写真でしか見たことがなかったので、想像していたイメージと違っていたが、松尾スズキの演出の中で呼吸していたのはさすがと思う。
    周囲の声が聴こえなくなった状況で、少女が実際の聾唖者のような発音をしていたことが印象的。「螺船版」ではなかった。
    農業や田舎を嫌い、都会に出た少女が結局、農作物のブランド戦略に利用されてしまうが、その毒から離れて黙々と農業に向き合う皮肉。このあたりが「螺船版」では非常にわかりやすかった半面、ヤマモトと少女のかかわりかたがややわかりにくかった。
    今回の公演は逆に、都会での生活描写が具体的に入ってくる分、都市農業の諷刺がややぼやけた感が残った。
    「都会では野菜を英語で表現し、化粧品などに加工してからだの外に塗る」というのもなるほど痛烈な指摘だと思った。また、よく知らない人物がゲスト出演し、「あの○○界のカリスマXXさんが企画したお品物!」と絶叫する深夜のTV通販のいかがわしさも都会の毒の一種なのかもしれない。
    ヤマモトも都罪も妄想に生きている男。少女は都会を夢見ながらもひたすら現実を希求する。少女と男たちの関係はいまひとつ真相がよくわからないのだが、もしかしたら、この少女の話も現実には存在せず、男たちが妄想の中で作り出した虚像なのかもしれないと思った。前回の「螺船版」ではそんなことは考えなかったのだが。
    多部未華子はTVの画面の中より舞台のほうが合っている気がする。最近は不況の影響も受けてTVドラマ界が不調のせいか、舞台に進出する人が増えている。昔は映画スターが舞台に転進する例が常だったが、いまや大女優の岩下志麻のように舞台俳優の両親を持ちながらただ一度「オセロ」に出て「舞台には向かない」と自分で判断してその後一切舞台に出ないような人はむしろ珍しい。多部には舞台女優の素質もあり、今後、良い作品に巡り合うことで活躍していってもらいたいと思う。
    終演後、若い男性客が「むずかしくてよくわからなかったけど、多部は超カワイイ!」と言っていた(笑)。

    2

    2010/03/10 22:19

    0

    0

  • tetorapackさま

    コメントありがとうございました。恐縮です。「農業少女」はわかりにくい箇所もある分、演出で印象も変わるし、何度か観たい作品ですね。今回2度目ですが、前回装置なしでよくわからなかったところがわかりやすくなっていました。今度、どこかがやったら、また観ようと思います。最近、東京農大の演劇部が上演したのも見逃したけど観たかったです。農大は過酷な部活環境の中、本当にがんばってるんですよ。
    今回の松尾版は娯楽色があり、POPな農業少女だったでしょうか。いかにも大人計画らしいというか。野田秀樹作品ということを感じさせない、自家薬籠中の物になっていましたねぇ。
    多部さんは、朝ドラで中村梅雀、高畑淳子、イッセー尾形といった舞台のベテランと組んだ経験が生きていると思いますね。
    松尾と多部のファンが押しかけたためか、ぴあの一般販売ではダメだったのですが、
    池袋芸術劇場のほうで奇跡的にとれたんです。でも休日に2枚はとれず、家族別々の日に行くことに。
    でも、空調の埃の影響か、持病が悪化して本当につらく、翌日は寝込んでしまいました。tetoraさまのコメントも夫に音読してもらった次第です。

    2010/03/12 11:56

    きゃるさん
    tetorapackです。

    レビュー、ねんごろに拝見しました。楽しかった。
    実はこの公演は、行こうかと思いつつ、そうこう悩んでいるうちに他公演でスケジュールが取れなくなってしまっただけに、きゃルさんのレビューを読めて良かったです。
    私の親しい同僚も、いたく気に入っておりました。そして、多部未華子が本当に熱演だったと。

    >私はかねてから「農業少女」のヒロインには多部未華子が合っていると思っていたので、今回の配役が発表されたときは、わが意を得たりだった。

    それって、すごい。ドンピシャだったんですね。

    私と言えば、昨年11月、F/T参加作品のニコン・セタン翻案・演出の「農業少女」は観たのですが、どうもそれが影響してしまったのか、即座に観るという行動を取らないうちにチャンスを逃してしまった次第です。先の同僚はセタン版も今回も観ていますが、中身も秀逸さも格段に今回の方が良かったと。ああー、遅参その意を得ず、といった感じです。

    まあ、きゃるさんのレビューで少し胸のつかえがとれました。ありがとうございました。

    2010/03/11 15:50

このページのQRコードです。

拡大