ヒグマと鮭
横浜赤レンガ倉庫でニブロールの新作を見てきた。小雨の寒い日だったが、客席はちゃんと埋まっていた。チェルフィッチュの公演が横浜美術館で上演されているので、掛け持ちで見に来た人もけっこういたのではないかと想像する。
前半の出演は男女6名。テレビの受像機がいくつか舞台に置いてあり、そのうちの3つが客席を向いていて、そこにおなじみ高橋啓祐の映像が流れた。白い積み木細工のロボットが延々と落下していく映像にしばし目を奪われる。たとえダンサーが舞台にいても、映像にひきつけられたらそっちを見てもいいのではないか、映像への興味にダンサーの動きが勝るまでは無理にダンサーの動きを追う必要はない。今回はそんなことを思いながら作品を見ていた。
矢内原充志の衣装はパッチワークを思わせるツギハギの衣服。セーラー服のブラウスの一部が緑の植物柄になっているのを見て、なんだか体の一部に苔が生えているような印象を受けた。
男2人(陽茂弥・橋本規靖)と女4人(カスヤマリコ・小山衣美・衣川明奈・永井美里)は似たような小柄な背丈。ニブロール独特の小刻みで、すばしっこい動きには、あの体型が重要だと感じた。去年見たシルヴィ・ギエムとアクラム・カーンのダンス公演では、手足が長く上背のあるバレエダンサーのシルヴィ・ギエムと、武術的な民族舞踊を下地とするアクラム・カーンのずんぐりとした体の違いがとりわけ印象的だったのを思い出す。
マラソンのピッチとストライド走法の違いに似ているかもしれない。
それにしても矢内原美邦の振付というのは、彼女の欲求不満というか、苛立ちみたいなものが動きに色濃く反映している気がする。プログラムのあいさつ文にも、踊ることは大っキライなんて書いてあるし。
そんな彼女も後半には舞台に登場した。後半はニブロールの作品としてはかなりの新趣向。フィリップ・ジャンティの作品かと思うような、送風機で風をはらませた大きな布が舞台いっぱいに広がる。布の色は黒で、着替えたダンサーたちの衣装も黒。舞台の上手には開演前からヒグマが鮭をくわえた白い置物がたくさん並んでいたが、後半ではそれを黒い布の上に重石のように並べたりする。内容の解釈はさまざまだが、もしも作者の心象風景だとしたらそれはあまりにも殺伐としていて、ちょっと心配になる。