実演鑑賞
満足度★★★
今年(2022年)も京都で複数公演のカトケンさん。今年2作目はクリスマスシーズンの24日、25日の2日間の上演で、24日の公演を鑑賞。
今回の作品は今年(2022年)3月に92歳で亡くなった劇作家、脚本家の吉永仁郎の戯曲。カトケンさんの舞台は洋物が多く、和物の作品は7年振り。
吉永仁郎は1929年10月、東京本所生まれ。1951年に早稲田大学第一文学部英文科卒業後、都内の中学校に英語教師として勤務。そのかたわら劇作修行を始め、舞台芸術学院講習科を卒業し、劇団虹の会で習作数篇を執筆するも28歳で演劇から離れる。しかし、1969年、40歳になり再び劇作を始め、1974年以降民藝、文学座、俳優座、蝉の会などに戯曲を多数書き下ろした。
主に評伝劇を書き、処女作は1974年の「勤皇やくざ瓦版」(劇団東演初演、後に劇団民藝再演)。主な上演作は、1982年「すててこてこてこ」(民藝、渡辺浩子演出)、83年「夢二・大正さすらい人」(民藝、渡辺浩子)、85年「芝居-月もおぼろに-」(文学座、加藤武)、89年「季節はずれの長屋の花見」(俳優座、阿部廣次)、91年「彫刻のある風景 新宿角筈」(文学座、加藤武)、91年「さりとはつらいね…」(俳優座、三木のり平)、92年「蜆川」(劇団潮流、香川良成)。
21世紀に入ってからも2001年「静かな落日-広津家三代-」(民藝、高橋清祐)、04年「風の中の蝶たち」(文学座、山田風太郎原作、戌井市郎演出)、05年「深川暮色」(民藝、藤沢周平原作、高橋清祐演出)、07年「リビエールの夏の祭り」(俳優座、中野誠也)、13年「集金旅行」(民藝、井伏鱒二原作、高橋清祐演出)、15年「二人だけのお葬式」(青年座、金澤菜乃英)、18年「大正の肖像画」(民藝、高橋清祐)など多数。
90歳を過ぎても創作意欲は衰えず新作を書き下ろし、昨年(2021年)4月に民藝が丹野郁弓演出で上演したロシアの作家ゴーリキー(Maxim Gorky)の「どん底」を原作とした「どん底-1947・東京-」が最後の作品になった。
加藤健一事務所が吉永仁郎の作品を演じるのは、7年前の「滝沢家の内乱」以来2作目。「滝沢家の内乱」は江戸の戯作者滝沢馬琴を描いたもので、94年に蝉の会、渡辺浩子演出で初演されたもの。私もここアルティで見た。今回も出演されている加藤忍さんとの二人芝居だった。
今回の「夏の盛りの蝉のように」は浮世絵師葛飾北斎と彼を取り巻く人間たちを描いたもので、「蝉」として劇団潮流で上演後改定、1990 年に蝉の会で「夏の盛りの蝉のように」として初演。以降蝉の会にて再演を繰り返してきた。2014 年には文学座にて上演。加藤健一事務所では今回が初上演。
蝉の会上演時の出演は大滝秀治(北斎)、加藤剛(華山)、高橋長英(国芳)、草野大悟(北馬)、白石珠江(おえい)、観世葉子(おきょう)。文学座公演は加藤武(北斎)、金内喜久夫(華山)、中村彰男(国芳)、大場泰正(北馬)、富沢亜古(おえい)、古坂るみ子(おきょう)。
今回の加藤健一事務所公演は113回目。今年(2022年)12月に下北沢の本多劇場とこの京都公演が行われた。
以前からの繰り返しになるが、カトケンさんこと加藤健一さんは1949年10月静岡県磐田市生まれ。1968年、袋井商業高校卒業後、半年間のサラリーマン生活を経て劇団俳優小劇場の養成所に入所。1970年に養成所を卒業後、つかこうへい事務所の作品に多数客演し、10年後の1980年に加藤健一事務所を創立されたので、2020年がそれぞれ50周年、40周年だった。
この間、2004年には読売演劇大賞優秀男優賞を受賞、2007年には紫綬褒章を受章、その他にも菊田一夫演劇賞など多くの賞を受けている。毎年3、4本の公演を行っているため、映画やテレビドラマへの出演は限られているが、2016年の吉永小百合と二宮和也の主演した山田洋次監督作品の「母と暮せば」では福原母子の家に出入りする上海のおじさんを演じ、毎日映画コンクール・男優助演賞を受賞している。
現在(2022年4月から1年間)NHK BSプレミアムで再放送されている1981年のNHK大河ドラマ「おんな太閤記」では加藤清正を演じる若き日のカトケンさんを見ることが出来る。当時31歳。
今回の話は上述のように葛飾北斎と彼を取り巻く人間たちの話で、必ずしも北斎が主役ではない。北斎の弟子の中では筆頭にあげられた蹄斎北馬。武士でありながら肖像画を描いて日本一と言われた渡辺崋山。遅咲きながら武者絵や戯画など独創的な浮世絵を生み出した歌川国芳。晩年まで父・北斎の画業を助け、北斎の画才を受け継ぎ一目置かれる絵師となったおえい(葛飾応為)。そして架空の女性だが、結構したたかに生きるおきょう。
この6人が異国船打払命令からシーボルト事件、蛮社の獄とペリー来航までの怒涛のごとくに事件が起こる文化13 年(1816年)から安政5年(1858年)までの43年間に、それぞれが生き様や志を絵にぶつけ北斎に立ち向かっていく。変化する時代の波に翻弄されながら、家柄や流派を超えて切磋琢磨し、世の中を相手に絵師として熱く議論を戦わせる江戸の者たち。暑く眩しい季節に忙しなく聞こえてくる、あの夏の盛りの蝉のように。
おえい役は加藤忍。加藤健一事務所俳優教室出身でカトケンさんの舞台ではお馴染み。1973年10月生まれで、神奈川県出身。彼女もテレビドラマや映画にも出ておられ、吹き替えの声優もされている。
渡辺崋山役の加藤義宗はカトケンさんの息子で彼も何度も見ている。1980年1月生まれ。1996年の加藤健一事務所の「私はラッパポートじゃないよ」が初舞台。自身のプロデュースユニット「義庵」も2020年に立ち上げている。
蹄斎北馬役は新井康弘。私よりは一つ若い1956年12月生まれで、川崎の坂戸育ち。1974年から82年までずうとるびで人気を博した。グループ解散後は俳優業に専念し、1999年から2009年まで続いたTBS系昼帯の「大好き!五つ子」シリーズでの五つ子の父・桜井良介役が当たり役となり広く知られた。加藤健一事務所の舞台も常連で、何度も拝見している。
歌川国芳役は岩崎正寛。1974年9月生まれで神奈川出身。早稲田大学卒業後、演劇集団 円に所属して、俳優の他声優も務めている。私は初めて拝見する。
おきょう役は日和佐美香。1982年10月大阪生まれ。大阪芸術大学卒業後、文学座研究所を経て現在に至る。テレビドラマにはあまり出ておられないようで、初めて拝見した。
演出は黒岩亮(まこと)。1960年生まれで大阪出身。青年座研究所卒業後、入団。1989年「勇者達の伝説」でスタジオ公演初演出。1994年「カデット」で本公演初演出し、注目を浴びる。1997年秋には初めて青年座に書き下ろした永井愛氏の「見よ、飛行機の高く飛べるを」を演出し、芸術祭大賞を受賞。カトケンさんとタッグは初めてかしら。
上演時間は前半が1時間15分で、15分休憩の後、後半1時間の合計2時間半。カトケンさんが主役と云うよりみんなが主役的なストーリーで、ほとんどが北斎の自宅だが(ただし、何度も引っ越してるので毎場面別の家)、北斎が登場しない場面も多い。カトケンさんの舞台なので、笑わせる場面もあるが、どちらかと云うとまじめな話。
終演後30分ほど時間を空けてアルティ館長の雨宮章さんの司会で京都公演恒例のアフタートークがスタート。いつもより遅くのスタートは時代劇で着替えに時間が掛かったとのこと。特に女性は大変だよな。頭(髪の毛)結ってるし。今回はカトケンさんと新井さん、吉宗さん、日和佐さん。5月には久々に京都労演の土屋さんの司会に戻ったが、また雨宮さんだった。
皆さんの今年の漢字の話。カトケンさんは「耐」、新井さんは「覚」、吉宗さんは「挑」、日和佐さんは「運」とのこと。カトケンさんはコロナ禍の影響がまだ大きいそうで、とにかく耐えた1年だったとのこと。
新井さんは人名や年号、歴史を憶えるのが嫌いで勉強しなかったのに、まさかそんな説明を長々と覚えなければならないのが大変だったと。そう云えば、今回のせりふで北斎が110歳まで生きる積もりだったって云うのを210歳って云っちゃったて暴露されてましたが、聞いててあれっ?って思ってたわ。
吉宗さんは自分のプロデュースなどに挑戦の年だったそうで、日和佐さんはこの舞台に立てたことが運が良かったと。そう云えば、大阪出身で応援団の方が多く来られてたそうなのだが、挙手をお願いしたら皆さんもう帰られてたのには笑った。
5時半、30分ほどのアフタートーク終了。で、残念なお知らせも。加藤健一事務所の次回公演は3月末から4月に掛けての「グッドラック、ハリウッド」だが、京都公演はなし。その後は決まってないそうだが、来年(2023年)はその後も京都公演はなし。さらに2024年は年初めから7月までアルティの耐震工事が予定されてるそうで、当然京都公演は無理。早くて、2年後か・・・ 悲しい。
以上