実演鑑賞
満足度★★★★
「青春の殺人者」は、実際に起こった事件に取材した芥川賞作家中上健次の小説『蛇淫』をもとに、両親を殺害した一青年の理由なき殺人を通して描いた特異な青春像。当時、内容や演技〈水谷豊、原田美枝子、市原悦子、内田良平など〉が話題になった映画だ。
公演は それの舞台化(令和版)、概要は映画のような展開である。勿論、映像と演劇という表現の違い、しかも47年前の映画である。比べるのも どうかと思ったが、説明に「映画史上に鮮やかな傷跡を残した伝説的映画」とあり、そのシナリオを改変して描いた とある。何となくではあるが、青春期の鬱屈もしくは無為的な生き方が伝わらないのが少し残念。精神面の描きが弱いが、逆に視覚として観せる親殺しの血〈肉〉体的なシーンは刺激があった。それをシンプルな舞台セットや衣装によって印象的に観せる巧さ。
また、映像画面によるアップの細かな表情には敵わないが、肌で感じる熱量や息づかい、その臨場感は生の演技〈芝居〉でなければ味わえない。
田村孟 氏の「傑作シナリオと格闘して出来た本作、現代の若者の在り方を考えるための一助になれば」とあることから、少し辛口になるが 気になったことを…。
死体を遺棄した後、車内での会話があまりにも淡々としており、気持の昂ぶりや これからの逃避行といった先行きの不安が伝わらない。殺人と逃避行を繋ぐ場面、そして回想へ といった構成の妙が活きてくる重要な場面でもある。また映画では、時代背景として学生運動や成田闘争を経ても、 社会〈世間〉は何も変わらないし、変えられないという絶望と無力感が垣間見えた。令和版ならば、コロナ禍という閉塞感を青春期の無為もしくは虚無感に重ね合わせるなど、別の観点でもっと尖った観せ方でもよかった。設定がスナックという飲食を伴う場所だけに なおさらである。
舞台では、映画の火事場シーンは描き難いと思うが、逆に これからの二人の道行きに余韻を残し 印象付けていた。
演技は激昂、悲哀、憐ぴ といった感情表現を観せるが、それでも穏やかな印象である。青春期の荒々しさ無軌道さをもっと強調してもよかった。全体的に温和しく無難な感じに仕上っていたように思う。
(上演時間1時間40分)【チームA】追記予定