実演鑑賞
満足度★★★★
何度か見ている芝居なのに見るたびに感じが違う。1957年のピンターの初期作品で、まだ冷戦時代。イギリスではグレアム・グリーンが人気作家で、まもなくモームが亡くなり、ル・カレがデビューするころ。芝居では、不条理演劇が注目されていた。
日本で最初に見たときは、田舎旅籠ものの調子だったが、次第に不条理劇的になり、今回はサスペンスもの。
様々な趣向が可能なところが奥が深いところだ、登場人物たちも、登場人物たちも、物語も、キャラがあるようで、破綻している。そこがリアルなのだが、確かにまとめにくい。演出の松森望宏は始めてみる演出だが、細かくサスペンスを積んでいって飽きさせない。ストーリーを見る作品ではない、というのはその通りだが、今までは筋をなおざりにしてきたせいで、思わせぶりな前衛劇、という印象が抜けなかった。松森演出は謎に満ちた現実の諸相をあたかも伏線であるように描いていって、緊張感がある。照明に加えて、音響効果と音楽も狭い劇場の特質を生かして大いに劇に貢献している。新人なのに、うまいのである。
この演出者は後しばらく見てみたいと思わせる出来だった。
CEDERは松森が新国立劇場の俳優研修生の北野由大(スタンレー)と組んだグループだが、実質的にはプロダクションで、適材がキャスティングされている。大鶴(謎の追究者ゴールドバーグ)、大森(宿の亭主ピーティ)のどこのプロダクションでも手堅く脇を固める俳優に加え、意外な顔ぶれではテレビタレントとみてきた藤田朋子が宿の女主人メグを好演している。2時間15分。クリスマスイブとあって、客が薄いのが残念な翻訳劇だった。