実演鑑賞
満足度★★★★
初日観劇。これまでのピンク地底人3号氏の作風とはガラッと変わった印象。何より、死者が出てこない(笑)ボクシング演劇と言いながら一人の難聴者の生き直しを描いたような作品だった。
芝居の最初、主人公とその友人の会話があまりにも棒読みというか、有り体に言うと下手くそで、これを2時間見せられるのかと驚いたのだが、慣れなのかなんなのか、すぐ気にならなくなった。しかし、耳のほとんど聞こえない人があんなにスムーズに声で会話できるものだろうか。と思っていたら、最後にネタばらしがあった。
最後に込めたメッセージは素晴らしい。しかし、途中の映画の話はどうにもモヤモヤした。聞こえないことを隠して合格しようとすることと、「IDを買う」ことを比較するには無理がある。聴覚障害者が聴覚テストのパターンを学習していい数字を出すのは、舞の海関が頭にたんこぶを作って身長制限を突破したのと基本的には変わらない。一方で「IDをかう」のは免許証偽造のようなものだ。それをあえて並べて比較した意図は?
そして、母親の感情がこの芝居にどう絡んでいるのかがいまいち分からなかった。クリスチャンの女性も、結局なんだったのだろう……という気がする。恋愛が描かれたわけでもなければ、それほど主人公に強い影響を与えたようにも見えなかった。主人公の内面はよく描かれていたが、周りの人物が浅かった。
いい作品だっただけに、もっと作り込めたらよかったのにという感じ。