実演鑑賞
満足度★★★
田中泯77歳。2002年、山田洋次監督、真田広之、宮沢りえ主演の『たそがれ清兵衛』にて俳優デビュー。クライマックス、真田広之と果たし合いをする敵役なのだが総毛立つ凄まじい存在感。「何だこの人は・・・」「この人の舞踊を見てみたい」と強く思った。それから20年、その日が来た。
客席通路に三人の男達(甫木元空〈ほきもとそら〉氏・三嶋健太氏・緒形敦氏)が赤い着物の女(石原淋さん)を担いで登場。さらってきた女を森の奥深くに捨てて立ち去る。石原淋さんは一人、舞台へと歩みを始める。樋口可南子っぽい印象。紅花の着物は幕末期の物らしい。この彼女の動きが強烈なインパクト。映画のワンシーン。田中泯氏が唯一認めた弟子とのこと。
ステージ・バックには杉本博司氏のアートが巨大スクリーンに投影される。日の出前の海が時と共にじんわりと姿を現す。絵のような写真のような水平線。じっと目を凝らしてしまう。(毎回変えているらしい)。他にも良寛の筆運び(「秋の日に光りかがやくすすきの穂 これのお庭に立たして見れば この人や背中に踊りできるかな」)や動きを止めない星々の大群が降り注ぐ。「雪は天からの手紙である」と中谷宇吉郎は言った。時折ぱらぱらと天から雪が舞い落ちてくる。
舞台中央、天井から一本の透明なパイプのような綱が垂れ下がっている。それを揺らし手繰り寄せまた揺らすのは作曲家本條秀太郎氏。三味線で奏でられる曲がリフが効いていて心地良い。キュアーっぽいゴシック・ロック。
田中泯氏は童のようにはしゃぎ回る。猿と兎と狐が集まる。幟を掲げ振り回して走る。ステージ中央に巨大な奈落があり、柵で囲まれたその周囲を駆け回る。はしゃぐ爺さん。
時折、上手に座り眼鏡を掛けると、良寛についてナレーション的に本を読む。
奈落が迫り上がり幾何学的な枠組みだけの家と寝床が現れる。
70歳の良寛と30歳の貞心尼(ていしんに)が出逢い、純愛が始まる。貞心尼の詠んだ「鳶(とび)は鳶 雀は雀 鷺(さぎ)は鷺 烏(からす)は烏 なにか怪しき」が曲として歌われる。これが名曲。世間の人に二人の関係が変に思われないだろうか?と心配する良寛に返した句。
手毬が始まり、夢中になって遊ぶ。
松岡正剛氏が「良寛の“書”」について書き下ろした本、『外は、良寛。』。書道専門誌の出版社からの依頼。
「淡雪(あわゆき)の中に顕(た)ちたる三千大千世界(みちおうち)またその中に沫雪(あわゆき)ぞ降る」
松岡正剛氏は「一沫の良寛が一千の雪となり、三千の良寛が一泡の雪となる。そのように雪と良寛がしきりに降りつづけているわけなのだ。」と解いた。
「雪は天からの消息である」。
「ただただ良寛の淡雪が降っていたのです。気がつけば、外は良寛━━、良寛だらけです」。