実演鑑賞
満足度★★★★
戦争で自分だけ生き残ったというサバイバーズギルトと、戦後日本の道義なき儲け主義を、巧みな趣向で描いた。前者のテーマを、幽霊が見える深川(神山智洋)がにない、後者を詐欺師の大庭三吉(八嶋智人)がになう。非常に構造がしっかりしているので、安定して面白い芝居。そこに、死者も金に換えるドライな庶民と、幽霊商売に乗っかって地位と財産を守ろうとする有力者たちがからんで、「死者と生者のカーニバル」がくり広げられる。
線が細く幽霊を頼って生きる深川を神山が好演、深川をゆうれいとわかれさせようとする大場ミサ子(秋田汐梨)も、若々しく、周囲のゆがんだ大人たちとは違った純粋さが際立った。しかし何よりの功労者は八嶋。独特の愛嬌を存分に生かし、口八丁の憎めない詐欺師ぶりを熱演。舞台を引っ張った。
深川が戦友を見殺しにしたという過去を、ミサ子からきいた新聞記者の箱山(木村了)は、「そういうことは戦争に行った人はだれしも体験しているのでは?」と冷めた答えを返す。私はこのセリフが印象に残った。サバイバーズギルトのもととなる体験でさえ、その特権化を拒否するとともに、逆に誰もがそうした思い体験を持っているのだと、心の傷の未曽有の拡がりを示唆する。幽霊を背沿っているのは一人ではない、と。
1958年、まだ戦争の記憶が生々しかったころの、そして高度経済成長が始まったころの戯曲。85分+休憩20分+75分=3時間