実演鑑賞
満足度★★★★
滅多に見られない愉快な笑劇の舞台だ。
新劇各劇団で、山椒の小粒のような脇役で地歩を固めた女優七人と、パフォーマンスとしての打楽器奏者和田啓が加わって、アイルランド演劇の基礎を築いたア米劇場開場の顛末のドタバタ劇である。脚本はアイルランドの作家マイケル・ウエスト。ジョイスの「ダブリナーズ」も劇化している!!と言うから只者ではないのだろうが、この作品はコントをつなげて様な形式で、新しい国民劇場開場と、その日の英国国王の訪問、反体制派や当時のアイルランド市民の母国脱出願望などを背景にした、劇場人たちの右往左往である。狭い劇場で舞台は八百屋にした空間に全員出れば動く隙もない。
かなり複雑な異国の話だが、よくわかるのは、演劇人の生活は東西を問わず、だからだろう。上演台本をうまく作っていて、俳優には大変な舞台だが、皆楽しそうにやっている。コメディアデラルテや、西欧古典劇の笑劇をベースに、衣装や化粧も含めいろんな笑いの形を取り入れていて、歌舞伎まで入っている。いずれもひつこくならないところで寸止めしている。楽器演奏の和田啓が秀逸。これでが劇の基本のリズムが取れたことが大きい。
全体としては殊勲甲であるが、せっかくここまでできるのだから感想を言わせてもらうと、
まず、やはり、演出者は要るのではないだろうか。みんな頑張っていて、引くところを知らない。というか折角の機会だから、やれるとこまでやっちゃえ、でそれはうまい人たちだから解るが、客は疲れる。
二つ目、自分で人物説明も、場面説明のナレーションもやり、対面の芝居でセリフは客席に向かって言い、聞く方は横顔、と言うスタイルは、長くなると飽きるし、手もなくなる。つい衣装や化粧に頼るが、例えば、日本の浅草喜劇などは基本スタイルは同じだが、その辺はうまく処理していたように思う。
三つ目、この演目は劇場の狭さに救われている面もある。次回ははトラムとか、あうるすぽっと、とかせめて風姿花伝くらいの小屋でやってほしい。十分できるだけの内容だった。
満席だったのは喜ばしいが、後ろの方で、役者が売ったチケットで来たのか若い女性客の一群が、役者が登場するたびに、待ってましたというように内容にかまわず,嬌声を上げるのがずいぶん邪魔になった。前の方だったからよかったが、後ろの方の席だったら、「出て行け!」と言いたいところだった。