サイコパス 木村伝兵衛の自殺―熱海殺人事件― 公演情報 中央大学第二演劇研究会「サイコパス 木村伝兵衛の自殺―熱海殺人事件―」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    完成度高い!
    申し訳ないけれど正直言ってあまり期待していなかった。しかし、そんな期待度を見事に裏切り、実に見事なエンゲキだった。惜しむらくは木村役の今永大樹の声が潰れてしまっていてバックミュージックに完全に負けて消されていたことだ。そして今永の歌の導入が中盤にあるのだが、これが本当にマズイ。完全に物語の流れを遮断していた。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    物語はアルツハイマーの母とセックスをし、殺した木村部長刑事、そんな木村の愛人・水野婦人警官はフィラデルフィア症候群の木村部長を愛してやまなかったが、彼女自身も水野家に養子に出された過去を持つ。そして売春をしていた実の母親。一方で心理学者の榊原は神戸殺人事件のあの殺人鬼・榊原という過去を持ち少年院あがりだった。未だに心に闇を持ちどこか卑屈で尖った言葉を吐きながらも自分自身の闇をなかなか認めようとしないこの3人が熱海殺人事件の容疑者をとことん追いつめていくのだから、観ている観客は楽しくて仕方がないのだ。

    この物語の見どころは、容疑者の切ないほどの過去、そして愛する母親から欲しかった愛情を見出せなかった時の落胆ぶり。一方で取り調べる立場の刑事らも病的なほど母親からの愛情を欲しているさまの深層心理の仕方に尽きる。しかし、彼らはそういったことを認めたくない。認めてしまうとその瞬間、自分を支えている何かがポキリと折れてしまいそうな逆にとがったものが刺さって抜けなくなりそうな、よくわからないけれど、とにかく「認めると負け」のルールが確かにあって、自分の気持ちの中で自分が被害者になったら、もう、全てがめちゃくちゃになってしまう。という空気感を見事に演じる。

    立場は違う4人だが、暗い過去を持つ4人の心は終盤に向けて少しずつ繋がっていく。その繋がりは似た者同士がちっさく輪になって大きな圧力から身を守るような体制だ。しかしそんな抵抗も空しく、容疑者大山が殺されてしまうと、榊原も殺されてしまう。そして「母親からの妄想から逃れるには自殺しかない。」と榊原が予言していたとおりに木村は自殺してしまう。残された水野は養子の先の水野家の父親が指揮いる自衛隊によって、同じく殺害されてしまう。終盤、水野が司法に直訴をする。といっていた言葉だけが空しくさ迷う。

    チャイコフスキーの導入音楽、真紅の薔薇を叩きつけるシーン、劇場いっぱいに広がるローズの香り、一気に妖艶になる雰囲気などの演出はほんとうに素晴らしい!そして何よりもキャストらのキャラクターの立ち上がり方が見事なのだ。他者から一歩足りとも譲れない完全なまでの立ち位置がきちんと確立されてて完璧なのだ。舞台はテンポよく一気に観客を引き込み、笑いどころも満載で飽きさせない。そして、こおろぎ兄弟の登場によって、会場は和み、一方で芝居の確信に迫っていく。終盤、長台詞を全く噛まないで演じた水野役の矢野由布子が実にいい。美しく聡明で芯が強く情の深い水野役を完全なまでに演じ切っていた。全ての出演者とスタッフに惜しみない拍手を送りたい。

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    2010/02/08 13:07

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