そんなに驚くな 公演情報 名取事務所「そんなに驚くな」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/11/20 (日) 13:00

    フライヤーの動物園、カニカマばかり食べる主人公…ラストで明かされるその理由が切ない。
    登場人物の誰もが「諦めて生きている」が、時に「やっぱり違うだろ!」と苛立つ、
    それが翻訳ものであることを完全に忘れさせる台詞で強烈に迫ってくるところが素晴らしい。
    天井からするすると降りて来るマイクを握り、熱唱する歌声がまだ耳に残っている。

    ネタバレBOX

    台所のある居間に布団を敷いて父親(高山春夫)は寝起きしている。
    この居間を中心主に人公ジュワン(西山聖了)の部屋、兄夫婦の部屋、そして便所がある。
    トイレというより圧倒的に「便所」と呼ぶのが相応しいこの場所で、父親は首を吊る。
    古い友人の葬儀に行った彼は、そこで昔家を出た妻を見かけたのだ。
    帰宅した父親はスーツに着替え、ジュワンに
    「枕の中に葬式代くらいの金がある」と伝えて便所に行き、そこで首を吊ったのだった。
    引きこもりのジュワン、映画監督らしき兄(神野崇)はたまにしか帰って来ない、
    その嫁(森尾舞)はカラオケコンパニオンという怪しい仕事で一家を支えている。

    少しずつ一家の秘密が明らかになっていく過程で、
    便所で首を吊った父親が「降ろしてくれー、首が痛くて死にそうだぁ」と懇願するが
    その声にお構いなく、家族は自分のことにかまけている。

    父親の腐敗は進み、嫁の浮気を知ってもスルーする兄、彼の作る映画はファンタジーだ。
    養子に出されたという夫婦の子どもは本当は誰の子だったのか?
    ジュワンが引きこもったのは母が出て行ってからだ。
    彼が追い続けるのは、母親のあの日の笑顔だけだ。

    便所の換気扇が壊れてひどい悪臭が鼻をつく、と言われるだけで
    一家の生活空間も、未来も絶望的だと感じる。
    改善も、追及も、協力も協調も、すべてもう諦めてしまっている。
    これが国の縮図であり、同時に観ている私たちの現実でもあるという普遍性が空恐ろしい。

    終盤、嫁が正気に返ったかのように夫に詰め寄るシーン、
    あれはまるで自爆テロのようなものではなかったか。

    ラスト、慢性便秘のジュワンは、父の吊るされている便所で母の思い出を語る。
    一緒に動物園へ行ったこと、カニカマを食べたこと、母の顔をずっと見ていたこと。
    もう戻らない過去を反芻することだけが、彼の甘美なひとときであり、救いだ。
    「そんなに驚くな」これは、どこにでもある、よくある話なのだ。

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    2022/11/21 00:35

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