チミドロの境界線 公演情報 劇団YAKAN「チミドロの境界線」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    心象的な内容をサスペンス ミステリー風に描いた物語。視点を逆転させるような柔軟で豊かな発想力、少し怪しげで奇妙な設定、そのプロットは面白い。しかし、その演出というか演技が嚙み合っていないのが残念。遺体の引き取り、その重苦しい設定でありながら、登場人物は明るく元気よく大声で話す。そして発声練習のような発語は…。

    説明にある兄のカウンセリングを行っていた精神科医と謎の女性が連絡を取り合うシーン、そこからミステリアスな雰囲気が漂い出す。勿論 舞台技術としての音楽、照明の諧調などは物語をしっかり支えている。それだけに脚本と演出のアンバランスが勿体なかった。
    (上演時間1時間35分 途中休憩なし)22.11.19追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央奥から流れるような薄布が敷かれ、何となく教会のバージンロードのよう。そこに色違いの箱馬、そして上手 下手にも2つ重ねた箱馬があるだけのシンプルな造作。この作りによって心象ー登場人物の彷徨する物語であることが容易に解る。
    当日パンフに脚本・演出の藍田航平氏が「『遺体』を引き取りにくる、そしてあのフライヤー。暗く、シリアスな、深い話が展開されることを望まれるかもしれませんが、そのご期待は冒頭10分ほどで裏切る」と記している。

    冒頭、男?兄?(藍田航平サン)と妹・神崎志保(服部円サン)の会話から すぐに暗転。兄が亡くなり引き取りに来るよう連絡がある。その遺体の引取場所には、志保の他に3人の女と一組の夫婦がいて、同じように遺体を引き取りたいと言う。どうして引き取りたいのか、その理由を知るには 兄と各人との関係性を明らかにする必要があった。順々に兄との関係を説明するが、そうすることで、同時進行的に事が成し遂げられるのか という疑問も生じる。

    1人目ーー南野祥子(勝間田奈海サン)は、バンド仲間でメジャーデビュー間近だったにもかかわらず、兄は逃亡し行方不明になっていた。2人目ーー相坂美希(荏原汐里サン)は、兄の婚約者で結婚間近だったが、気持のすれ違いから別れた。3人目ーーVチューバーというか仮想空間の人物に恋い焦がれサイト(運営人・兄)へ課金して(貢いで)いた。最後の浪川亮太・千佳夫妻(外山達也サン・鈴谷侑子サン)は妻が眠れなくなり新興宗教へ嵌り、心配で夫も入信する。その教祖が兄だった。自己紹介から夫々の説明までが冗長で、緩いテンポで進む。ここまでは、どちらかと言えばサスペンス風で、テンポよく展開してほしいところ。そして謎の女・上田咲(吉田爽香サン)が、遺体引取の電話をした人物・カウンセラー 鷹宮普司(松永修弥サン)へ連絡したシーン以降、ミステリーさが加わる。

    実は、遺体の引取という理由で集められた人々、そして各人が現実に関係した人物はバラバラの別人である。夫々の人は心が病んでおり、精神科へ通院していた。死体ではなく各人の魂が死んでいた。その担当医が咲の兄であった。その精神科医の治療法は斬新で、さも各人の相手になって関係しているかのような錯覚、言い換えれば寄り添った治療(疑似体験)をしていたが、逆に多人物への投影は自分を見失い精神を病んでしまった。兄が行方不明もしくは死んでいたら、といった強迫観念から復讐を果たそうと…。咲が登場してからのラストは怒涛の展開である。上田咲こそが、激情した大声で皆に詰め寄るのだが、その咲役・吉田さんは熱演していた。

    気になるのは 以下の通り。第1に 冒頭の男は、志保の回想による生前の兄か、または咲の兄 カウンセラーとのリアル対話か。暗転の意味合いが絶妙なのか微妙なのか判然としない。第2に 物語に潜む凶器にして狂気な世界観と序盤の明るく元気な雰囲気、そのアンバランスさは敢ての演出であろうか。大声での表現はけっして感情表現になっていないと思うが。
    本公演、物語の面白さを十二分に引き出していないのが残念。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2022/11/18 18:18

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