革命前夜 公演情報 troupe▲antLion「革命前夜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    濱野和貴が中心になって結成したユニットの第1回公演。フランス革命三部作や源氏物語、マレーネ・ディートリッヒを主人公にした「Gloria」をはじめとした秀作群を放っていたものの、主宰の不実さから解散に追い込まれた芸術集団れんこんきすたの座付作家兼演出者だった奥村千里の書下ろし新作でもある。むしろ奥村が自劇団での上演という軛から放たれて、初めて自由に書いた作品ともいえるだろう。

    そんな奥村が採り上げたのが1980年代、共産党政権が崩壊するビロード革命勃発直前のチェコスロバキアの首都プラハである(チェコスロバキアと聞くと64年の東京五輪での優美な演技で名花と讃えられた女子体操のチャフラフスカが懐かしくなるワタシは相当に古い…)。

    定刻に開演、上演時間1時間20分。

    [以下、ネタバレBOXへ]

    ネタバレBOX

    劇作家であるハヴェルが結成した劇団の団員達は、政府の厳しい監視の下、活動の制限を余儀なくされていた。監視の目を掻い潜って時折集まる彼らのもとに、獄中のハヴェルが執筆した新作戯曲が届けられる。それは本物なのか、本物としたら面会さえできぬハヴェルからどうやって届いたのか…粗末な木製のテーブルと椅子、整理箪笥とコートハンガーがあるだけという簡素なセットの中で濃密な会話劇が繰り広げられる。

    ハヴェルの作品を保管しているというだけでも逮捕されかねないのにその戯曲の公演を行なうべきか否か、それはまさに演劇か死かの選択を突きつけられたに等しいものだったのだ。

    「観ない人間からすれば、舞台なんてどうでもいい。(中略)あってもなくてもどちらでもいいんだ。舞台は、求められていない」というハイスキーの言葉や、「観に来てくれた人を、自分の舞台で誰かを死なせる覚悟なんて持てない。(中略)きっと、舞台に立てるのは、観に来てくれた人を守れる人だけなんだ」というアタの言葉は、演劇というものに関わる人間にとっては胸に刺さるものだろう。コロナ禍で公演を打つべきかどうか苦悩する小劇団にとっては現実的であるともいえる。
    そういえば、「日本を愛し、演劇を愛する。そんな当たり前を取り戻す」という劇場都市TOKYO演劇祭のキャッチフレーズに、「舞台を観たことがない人間にとってそんなものは当たり前ではない」と自称リベラルの舞台女優が噛みついていたが、舞台人自身がそれを理想としないでどうするというのだ。
    奥村の新作は、圧政下のチェコというだけでなく、今現在の演劇に関わる人々に覚悟を迫る作品でもあるといえるだろう。いろいろと考えさせられる作品だった。

    政府側の人間でありながらハヴェルの友人・協力者でもあるハイスキー役の濱野和貴が殊にスゴイ。れんこんきすたの「リチャード三世」などで冷酷な人間を演じてはいたものの、これほど無感情とも思える冷たさを全身に滲ませた役は初めてではないか。

    因みに劇中でチェコの宝としてチャペックの名前が出てくる。カレル・チャペックというと「ロボット」という名前を作ったことで有名で、一昨年は私もチャペック作の舞台作品の上演を3本観ているが、私にとってのチャペックは童話「郵便屋さんのお話」の作者なのだ。私が幼少期に読んだ童話BEST3の1本なのだ(あと2つは有島武郎「一房の葡萄」と小川未明「赤いろうそくと人魚」)。

    残念だったのは国がどんどん貧しくなっている象徴として「まともなコーヒーだって飲めやしない」ということで、分けてもらったコーヒーを入れて大切に飲む場面が何回かあるものの、コロナ対策でマスクをしているために、その香りが感じられなかったこと…。

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    2022/11/15 13:45

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