精神病院つばき荘 公演情報 トレンブルシアター「精神病院つばき荘」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/10/14 (金) 14:00

    座席1階

    以前から見たかったこの舞台。ようやく見ることができた。下北沢の小劇場は補助席まで出す満席。小劇場ファンだけでなく、日ごろは下北沢など来ないように思われるお客さんも多かった。日本の精神医療の恐ろしさを感じている人が多いからかもしれない。

    舞台は、男性患者に院長が集会での発言を頼む(病院側の意に沿うように強要する)場面から始まる。患者と院長の会話を聞いていると、患者が冷静に答えているのに対して院長は突然主治医を自分に変更したり、めちゃくちゃぶりが最初から際立つ。患者が言うことを聞かないとみるや、院長は強制隔離の書面を作って一方的に読み上げる。看護師が止めようとするが止められるものではない。患者は隔離の部屋に閉じ込められる。

    原発事故と絡めた展開になっているところが示唆的だ。東日本大震災では原発が爆発したときに精神科病院の患者らが取り残され、避難中のバスや搬送先で数十人が亡くなるという悲劇が起きた。災害や戦争などの非常時に真っ先に切り捨てられるのがこうした患者たちであり、障害を持つ人々であると世の中に赤裸々に示した。このあたりが、精神科医から劇作家に転じたくるみざわしんの「原点」とも言える場面だ。

    舞台では、1964年に米国の駐日大使ライシャワー氏が精神疾患歴のある青年に刺されるという事件が起き、日本に精神病院がたくさん建てられたという歴史も述べられる。精神科のベッド数は外国と比べても日本は断トツで多く、精神病患者は病院に閉じ込めておくという発想が一般の人も含めて定着し続けている。安倍総理銃撃事件でもそうだが、被疑者の精神鑑定が行われることは多い。犯罪が精神疾患によるものという司法判断が出た場合、患者(被疑者)には刑罰ではなく入院・通院治療が行われる。これは個人的な感想だが、ここでも入院で社会から遠ざけておくという発想が残っているような気がする。精神科病院が「迷惑施設」と言われるように、入院患者はいつ犯罪を犯すか分からない怖い人、というイメージがまだ根強い。
    ここ数年、ようやく精神疾患の入院患者を退院させ、社会の中で共に生きるための支援を手厚くする方向に向かっているが、現実はまだ、26万人もの入院患者がおり、ベッド数もそれほど減っているわけでない。舞台ではこのような精神疾患患者たちの強烈な人権侵害について、いまだ問題になっている身体拘束も含めて分かりやすく提示される。

    メディアが真正面から扱おうとしない精神科病院の実態。演劇だからこそ世の中にしっかりと示せるのだろう。この戯曲は現実を「告発」する大きな力を持っている。劇中の、「自分たちは大きなものに見放されている」というせりふが心を刺す。大きなものというのは政府、精神保健行政だ。多くの人が見るべきだと思う。

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    2022/10/14 18:06

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