実演鑑賞
『滝沢家の内乱』や『神遊(こころがよい)―馬琴と崋山―』などに続く、
『南総里見八犬伝』をめぐる、不屈の人、曲亭馬琴(滝沢興邦)と
その周りの人々を描いた評伝時代劇の力作(小説では、山田風太郎の
『八犬伝』等あり)。
世の中の情勢がどうであろうと、作品を世に出すということが
どれほど手間暇のかかることか、当時の読本の制作過程と
不要不急のものといわれる昨今の演劇作品の制作過程とが
自然と重なってみえてくる。
作品というのは、一人の力だけで世に出せるものではなく、
幾人もの人たちの手による協働作業の賜物である。
劇本体に、『八犬伝』の原文での劇中劇(読本の強靭な2.5次元舞台)を
織り交ぜながら話が展開してゆく(このあたりの構成は、山田風太郎の
『八犬伝』のそれに近い)が、そのタイミングと構成バランスは絶妙で、
グリフラの『かっぽれ!』シリーズ作品でみせたあの鮮やかな転換を
彷彿とさせる。『八犬伝』を完結させてもなお尽きることのない創作
意欲溢れる戯作者魂、気概をみせる馬琴のラストシーンも前向きで心憎い。
ちなみに、題名は、『八犬伝』第四輯巻之一第三十一回の
「いにしへの人いはずや、禍福は糾縄の如し、人間万事往くとして、…」
からきているとおもわれるが、おおもとは、
「禍は福の倚る所、福は禍の伏す所なり」。