実演鑑賞
満足度★★★★
晩年、目を患って口述筆記で「南総里見八犬伝」を完成させた滝沢馬琴(佐々木睦)の家族、ことに夭折した息子の嫁みち(高橋理恵子)の奮闘記である。
この時代は馬琴のような大衆読み物をはじめ、浮世絵や評判記、芝居など、都市大衆文化の最初の興隆期で今までにも、浮世絵の画家の北斎、広重、写楽や出版元・蔦屋、作者でも山東京伝など、芝居にして立つキャラクターも多く、何度も舞台にも上がりテレビや映画の素材にもなった。どこか見たことがある、と言う既視感があるのは、今回は馬琴の日記をもとにして史実を追っているからでもあろう。円の総力戦の公演で、有力俳優はほとんど出ていて、文学座系であるだけに抽象セットであるにもかかわらず江戸爛熟期の雰囲気は言葉に出ている。佐々木睦、高橋理恵子はもとより、佐々木敏(北斎)、福井裕子(文盲の妻)、高林由紀子(みちの母)皆懐かしい俳優だが、脚本も含め、下町の言葉になっているのがいい。俳優の年月が生きている。若手では山本琴美(新米下女のむら)。
舞台はみちが口述を始めるところから完成まで、2時間半(休憩15分)にまとめているが、なくもがなの八犬伝の内容紹介や、登場人物、時代背景の説明など丁寧すぎてだれる。
キャラクターも物語も今どき、パワハラやジェンダー差別で指弾されることばかりだが、そういう歴史文化破壊の俗論に惑わされず、取り組んでいる。
芝居になりやすい時代と言えばこの後は明治の文明開化、大正リベラリズムの時代があるが、どちらも樋口一葉や伊藤野枝のような女性抜きでは成立しない。みちにも、劇的にはもっと個人に焦点の当て方があったと思うがどうだろうか。