僕が戦うから君はコーヒーを買って来て 公演情報 コーヒーカップオーケストラ「僕が戦うから君はコーヒーを買って来て」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    いざさらば、ありきたりな日々よ・・・いつか心に太陽を。
    さえないティーンのビターコーヒーのようにちょっぴりほろ苦い恋心。
    せまりくる、どうしようもないロールプレイングゲームさながらの宇宙戦争。
    なかば強引に繰り広げられるベタベタでチープなハードボイルド。
    などが相まって摩訶不思議なプリズムが放たれた快作。

    ネタバレBOX

    冒頭は闇。宇宙空間で作業をしている3人の宇宙飛行士の背後からヒューマロイドタイプの宇宙人が姿をあらわし、そのうちのひとりに噛みつく。すると宇宙人の中から人間の生き血を吸って蘇った人間が!

    所変わって、舞台は茶の間。怪力高校生、桜々丘 男太郎は朝、
    「ちぃ すうか? ちちすうか? すってくか? すってけ。」
    という母に反抗し、いやいやながら母親の胸に顔をうづめる。
    それが、男太郎の母に対するささやかな愛なのだ。

    男太郎の通う高校には、ジャージーのズボンをやたら上にあげて履き、茶色い健康サンダルに瓶底めがねをかけている、 現在妻と離婚調停中で気持ち舌ったらずな喋り方をする霧ケ峰先生、病気がちな妹のためにも女子プロ野球選手になりたい宇治川素子、 お腹を押すとチャイムが鳴るという芸を持っているふとっちょで愛嬌のある信夫など、愉快な仲間達がいるワンダフルな学園生活。 もちろん、好きな子だっている。村上春子だ。

    ある日、見知らぬ客が家に来る。地球防衛軍・・・。
    息子の将来を心配した母が内緒で願書を出していたのだ。
    彼らは言う。
    「男太郎くんは合格です・・・」
    涙ぐむ母に嫌がる息子。

    グッドニュースはそう長く続かないのが世の常とばかりに、歯車は少しづつ狂っていく。

    男太郎の母親が”危険人物”として地球防衛軍に連行されたのだ。 宇宙防衛軍によって連れ去られた人々は日本地図に載っていなければ、どこにあるのかもわからない ウバ島という場所に葬り去られ、二度と帰ってくることは出来ないという。

    男太郎は、大好きな春子にコーヒーを買ってくるように言い、自分は戦うことを決意する。

    が、そんな男太郎の決意をあざ笑うかのように追っ手がせまってくる。
    するとクラスメイトの宇治川素子が魔球を投げて 窮地に一生を得るもののやがて宇治川素子は動かなくなり男太郎は地球防衛軍に確保され、ついにウバ島送りにされてしまう。

    そして母との再会・・・。
    そこには、宇宙からやってきたアイドルらもいた。
    息子の将来を気にしている母は言う。
    「宇宙に大学はあるでしょうか?」頷く宇宙人。
    男太郎は母の期待に答えるため、宇宙へ飛び立つことを決意する。

    旅立ちの日。男太郎はラジオ局を乗っ取り、大好きな春子に別れを告げる。男太郎の短い春が、 センチメンタル・ジャーニーが終わった瞬間であった・・・。


    物語はこの他、 宇宙からやってきたグラビアアイドルとマネージャ(あだ名はジャーマネ)、事務所社長、自衛隊、総理大臣、医師、ラジオDJなどあらゆるキャラクターを 役者が数役づつ掛け持ちする形で描かれた。
    たとえ1シーンしか登場しない役柄であってもおざなりにせず、 割り振られた役柄をとても丁寧に育んでいた。 稽古場ブログによると、今回の稽古は2ヶ月間行われたそうで、 稽古期間をいつもより長く設定し、本筋に関係のないことをすることからはじめたという。 コミュニケーションを図り、信頼関係を築いた上で作品づくりをしていきたい、 という劇団側の狙いがあってのことだろう。 劇中で巻き起こることがいちいち非現実的でありながら、 突飛な世界観に飲みこまれない疾走感や、勢いをもたらしたのは 素晴らしいチームワークの賜物ではなかろうか。

    ただ奇抜なキャラクターや舞台設定でありながら、全体的にあっさりした印象だったことは否めない。
    感情の造形やそれぞれのエピソードがよくも悪くもフラットだったからだ。
    たとえば、春子にコーヒーを買ってくるように頼むシーンはタイトルを象徴する重要な場面であるはずなのだが、 男太郎の春子への熱い想いが性欲に特化されていたために、あっさり流れてしまっていた。 これは非常にもったいない。それこそ宇治川素子や前田キミ彦の心情を吐露するあのコミカルなモノローグを用いたり、 少女漫画に出てくるような、ベタベタでステレオタイプな恋愛ドラマを男太郎の妄想シチュエーションという形で挿入してもよかったのではないかと思う。

    もう少し突っ込んで書くと、男太郎の”怪力”の処理がちょっと曖昧。
    男太郎は自分の持ってるその不思議な力を受け入れている、というよりもさして気に留めていない様子なのがどうも気になってしまった。
    彼はその非凡な力について悩んだり悪用しようと企んだりすることはないのだろうか。

    正常な血液を注射して血液を逆流させることで宇宙人化することは避けられる代わりに右手が怪力になるという説明がもっと早い段階でなされていれば、あるいは、その注射をするために男太郎が通院している医師に相談する場面があれば 、母の血を吸うのはもうやめたいけれど、自分の血を吸ってもらうことで満たされ、 息子とつながっていられると実感できる母のことをおもうと断りきれない 男太郎の愛情というか、やさしさのようなものを描けたように思う。
    春子の犯し方も例えば、右手が勝手に・・・などと言い訳をしたり、 春子にキスをするフリをして血を吸いたいが我慢したりするアクションを加えれば、 男太郎の屈折した愛憎や変態性を打ち出すきっかけになったのではないかと思う。 このほか、怪力であることで何か生活に支障をきたす事が取り上げられていれば、もっとよかったかもしれない。

    あと、冒頭に出てきた宇宙人が総理大臣として鎮座していたけど、目的は一体何だったのだろう。これは宇宙人の王道、地球を侵略しに来た、ということでいいのだろうか。それにしては、栗田総理はあまりにもナチュラルすぎるように思えたのだが・・・。地球に来て間もないために言語が追いつかないのだろうか。非常にもやもやする。ナンセンスという一言で片付けていいものか、悩ましくもある。
    また、冒頭で行方不明になった宇宙飛行士がその後劇中で触れられることが全くなかったが、地球防衛軍(or自衛隊)が宇宙飛行士をモデルケースにどんな宇宙人が人間に何の損害をもたらすのか。ついてリサーチしたりプレゼンしてくれたら、半分ヴァンパイア化している地球人を地球防衛軍が狙い撃ちすることへの意味や、凄みが増幅したように思う。
    (宇宙人にも人間と同じように階層があってピラミッド社会なのではないかしらん。と栗田総理やグラビアアイドルを見て何となくおもったので。何の参考になるか全くわからないが、とりあえず書きとめておく。)

    とここまでげんなりするようなことばかり書いてしまったが、ヴァンパイアと宇宙人の組み合わせや、地球に仕事を探しに来た宇宙人という設定は非常に斬新であったし、頼りない新人から必殺仕事人になるまでの成長を描いた前田キミ彦や、どんなに傷を負っても職務をまっとうしようとするアケミ先輩の何くそ精神、仲間を思いやる気持ちの描き方は秀逸で、男太郎の通う高校のクラスメイトの描写はエキセントリックで独特であったし、ウバ島送りにされたひとたちの方がなんだか幸せそうだったり、ウバ島を管理しているばあさんと芸能事務所社長のやりとりにほっこりさせられたり・・・。すばらしいところもたくさんあった。
    また、コントやギャグは面白い、面白くない。に二極化されるシビアな分野だが、90年代のポップソングやつい最近流行った映画のタイトルを使ったそれらは非常にくだらないけれど、ぼんやりとした気持ちや世相を何となく反映していたし、コーヒーや清涼飲料を飲むシーンではCM通りの小道具がきちんと用意されていたり、ジャーマネが最後、銃で撃たれて倒れるまでをスローモーションで表現する時、地声にエコーをかけたりする細かな配慮などはいじらしくもあった。時折、ギャグの中に主張めいたものが紛れ込むのもよかった。

    ひとり何役も演じるのは観る方としては非常に楽しかったが、気苦労も多かったことだろう。衣装替えの時間が取れないなど、物理的に制限されてしまう描写もあったのではないだろうか。 そう思うと、34人の登場人物を14名の役者で描ききったことは賞賛に値すると言える。それに小劇場では稀に見るワイヤーアクションはなかなか見ごたえがあった。観客に楽しんでもらうこととはいえ、大変な作業だったに違いない。

    最後に一言。誰にも真似できない特殊なカラーはあらかじめ持っているので、今度はもう少し心の奥から叫んでみてください。もっとすごいことになると思います。 がんばってください。

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    2009/12/15 18:21

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