実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/09/27 (火) 13:30
座席1階
米軍基地のある佐世保にあった米軍兵士相手のバーのママの物語。その半生記を二幕で描いているが、80歳を超えている日色ともゑのあて書きであり、民藝の日色だからこそ演じきることができる役柄なのだろう。バーには2階があり、日色は何回も階段を上り下りする。舞台での大きな動き、出ずっぱり故に多いせりふに加えてこの階段である。この人の役者魂にはいつも、敬服させられる。
作者の河本瑞貴の実家はこの街で薬局を営んでいて、米軍兵士相手の「日本人妻」が薬や雑貨などを買いに来るお得意さんだったとか。兵士相手のスナックは店の女性を連れ出す店外デート料で稼いでおり、基地の街の経済は戦争がある限り潤うという構図だった。
劇中、朝鮮戦争が終わって米軍が去って閑古鳥が鳴き、ボーリング場に業態転換するという場面が出てくる。だが、ベトナム戦争によって歓楽街は息を吹き返す。社長が「戦争だ、戦争だ」と歓喜の声を上げるところに、何だかやるせない思いを覚えた。今でもやはり、沖縄や横須賀では当時ほどではないにせよ、似たようなことになっているのだろう。この舞台は戦後の日本の一部を切り取ってはいるが、戦争が生み出す経済、そして男女の仲というテーマは今も十分に通じるものがある。
この舞台では、スナックのママが娘を大学に通わせ「自分と同じような人生を歩ませない」と頑張る場面も描かれる。だが逆に、娘は大学進学を拒絶し、差別にさらされる人生に立ち向かおうとする。こうした影を知らされるのも、この戯曲の特徴なのだろう。
影といえば、「影」として登場する舞台回しもいい味を出していた。