血の婚礼 公演情報 ホリプロ「血の婚礼」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    スペインといえば「血の婚礼」を連想するほど、知られた戯曲で、今までも、ぶどうの会から始まって、何度も見た覚えがあるが、いずれもタイトルにあるように、結婚と殺人が同時に起きる荒々しい人間の根源的な生と死をエキゾチックな南欧の地方風景の中で描く舞台だった。今回は杉原邦生演出。よきにつけ、悪しきにつけ、今までに見たことのない「血の婚礼」だった。
    杉原演出は、今までも、唐や太田省吾、さらには、グリークスや木ノ下歌舞伎と、さまざまな作品で見てきた。古典から現代劇まで、自らの戯曲解釈と、今見るという現代演劇の立場が考えてあって、成否はあるがどれも演出家の存在を明確にする舞台であった。今回はロルカ。
    ロビーに出ていた演出者の弁によると、今回は作品に描かれた人物たちの「思い」の葛藤を中心に置いた由。
    舞台は白い壁にあみだくじのように筋交いの柱が埋め込まれているスペインの農家の一室、この四角い部屋が斜めに置かれていて、四角い部屋の端が三角形に組まれている。そこに二つの出入り口。窓があって、そこから外の広場がうかがえる。
    原作一、二幕がここで演じられる。壁に当てられる照明の色で若干の変化はあるが、ここで、結婚する男女の家族的背景が説明される。専ら立ったままの台詞による説明で、若い演者たちの台詞力もあって、舞台の熱量が上がっていかない。折角結婚式から花嫁と情夫の逃亡、と言う盛り上がるべき一幕の幕切れもさして華やかでもなければ、サスペンスがあるわけでもない。演出者のいう「思い」も生煮えである。
    二幕は、荒涼とした原野。ここで神々の出現も演じられ、そのあとは、ほとんどコクーンの裸舞台をいっぱいに使った派手な振付の花婿と情夫の殺陣。
    全体としていつもながら様式的な統一は、決まっているのだが、だからと言って、新しいロルカの発見があったわけでもない。不満はやはり、このドラマは、思いというならセリフや殺陣の動きでなく、人間の肉体のリアルな演技で表現しないと時代を超えられないのではないか、という疑問である。
    その点では、今回の若い俳優たち、花婿の木村逹成 情夫の須賀健太 花嫁の早見あかり、いずれもあまりにも現代そのままで、結婚式も六本木の結婚パーティもどき(それは今までの杉原演出にもよくあったことだが)今回はそれが、ロルカの世界とうまく重なっていかない。ベテランの安蘭けいもスペインの母性には及ばない。
    音楽は今まではギター音楽やフラメンコが定番だったが、なんだか中世宗教音楽のようで、それはそれでよかったが、舞台との兼ね合いで言うと、時々ドカンと大きな音を挟む音響効果と同じく舞台になじんでいたとは思えなかった。
    今まで基本、リアリズム演劇でふり幅いっぱいにやってきた「血の婚礼」を新しいスタイルでやろうという壮図はいつもながらの杉原演出らしく、小劇場も商業劇場も高いレベルで演出できる若手演出家として今後も大いに期待するが、今回は行き届かなかった。
    入りは平土間が八分、二三階は苦しい。

    0

    2022/09/22 11:51

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大