実演鑑賞
満足度★★★★
キンダースペース原田一樹氏の演出舞台はどうやら初めて。映画の印象が強いこの作品であったが、ほぼ映画と同じ流れを辿り(時系列に沿って進む完成されたサスペンスに手を加えるのは容易でなさそう)、イメージが固着した物語のディテールを新たに味わい直す楽しみがあった。
作品と演出とを総合して(どちらの比重が大きいかは判別できない)、物語のもつラディカルさが堅実な作りによって観客の前に差し出された、という手触りがあった。余計な細工をしない演出で若干淋しかったのは、裁判を決定づけた最後の証人と被告側(要は悪者=医療ミスを隠蔽した)弁護人とのやり取りが、映画ではカット、ズームアップによりドラマティックに編集されていたが、同じやり取りが舞台だと平面的になるため、スポットで強調、受け芝居の側が判りやすく動揺してみせる、などを観客なりに考えるがそれは無く、医療事故当時、問診票の改竄を執刀医に頼まれて従い、看護師を止めざるを得なかった無念を吐き出した劇的な証言も、淡々と処理される。ただ、明らかに偏った裁判指揮、証拠の不採用といった処理にも関わらず陪審員が要求額以上の賠償額を添えた有罪判決を静かに読み上げる神聖なクライマックスは、その前段の演出如何に関わらず訪れるのであるが。
真実とそれに拠って立つ公正さを希求する精神が、なぜ「ラディカル」と呼ばれるかは、それを許さない厳しい現実がある、という単純な事実を記すのみである。私達の目の前に恰好のサンプルがあり、かつて相対的穏やかな時代には(この映画も)ドラマの中の話であったもの。それがリアルに切実に臨場感をもって感じられるというのは、演劇界的には有難い事なのか・・。