毛皮のヴィーナス 公演情報 世田谷パブリックシアター「毛皮のヴィーナス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    男と女、演出家と女優という前者優位の社会関係を、マゾヒズムはひっくり返す。女主人に奴隷として使えることを喜びとする男。高岡早紀と溝端淳平がこれらの役割にのめりこみ、時に入れ替わりながら、支配と服従、上位と下位のパワーゲームを繰り広げる。二人のち密なやり取り、水面下の主導権争いから目の離せない、知的でスリリングでエンターテインメントの舞台だった。しかも意外に笑いが多かった。高岡の高飛車ぶりや、現代の蓮っ葉女と19世紀の高貴な女性を一人で演じ分ける落差、溝端の当惑ぶりが笑いのツボをくすぐる。アメリカの作者はコメディーと言っているらしいが、それが日本の舞台でも実現することは珍しい成果だ。

    高岡早紀のまさに体を張った演技、コントラストと落差が素晴らしかった。溝端も後半のマゾぶりがなまめかしい。女性から男性への復讐劇なのか、あるいは男性が自らの妄想の罠に落ちた自業自得の劇なのか。あるいは女性賛美という美名の裏にマッチョイムズを隠した男性優位劇なのか。一筋縄ではいかない芝居である。

    ネタバレBOX

    中盤、演出家に「くず女」とコテンパンになじられた女優が、キレて二階の出口から帰ろうとする。演出家が一転、「悪かった」「いかないでくれ」と懇願し、「お願いしますは?」と上下関係を逆転させた女優。そして優位に立つや、19世紀の貴婦人になって語りだす瞬間の、高岡早紀の別人のような神々しさにはうっとりさせられた。「「男が奴隷として従うほど、女は男に支配されるの」

    終盤、奴隷役(トーマス)だった男が、女主人役(ヴァンダ)に入れ替わる。ところが、次第に溝端の演じるヴァンダが、高岡の演じるトーマスにかしづき「正直で誠実で従順な妻にして」「あなたを痛めつけることだどんなにつらかったか」と、やはり奴隷になってしまう。この男女のジェンダーと支配関係が二転三転した末の倒錯と陶酔の世界は、おぞましくも甘美なものだった。

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    2022/09/01 00:44

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