毛皮のヴィーナス 公演情報 世田谷パブリックシアター「毛皮のヴィーナス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    マゾヒズムの語源にもなったマゾッホの「毛皮のヴィーナス」を今、脚色上演をしようと女優オーディションをしている劇作家・演出者(溝畑淳平)のアトリエに、時間に遅れて、行儀の悪い女優(高岡早紀)が飛び込んできて、オーディションを受けさせろ、と強要する。
    ここから1時間45分、現代の女優と劇作家が、19世紀末のマゾッホの描いた男女関係をどう理解して実践していくか、と言う二人芝居がスリリングに展開する。
    アメリカの劇作家・デヴィッド・アイヴスの戯曲で、ほぼ、そのままポランスキーが映画にして既に公開されている。この日本版は、戯曲や映画が持っていた原作(マゾッホ)へのヨーロッパ・コンプレックスから離れて、マゾッホの小説、アイヴスの戯曲、それを立ち上げようとする女優と演出者のナマの男女、という複雑な三重構造の中に現代に生きる人間を描き出そうとする。よく出来ている。
    冒頭、雷雨のなか、ぬれねずみで下品さ丸出しでやってくる女優が、衣装を用意してきたと言って、脱ぐ。下着はまるでサドマゾバーのウエイトレスのような黒のタイツの衣装。その上に十九世紀のフリルのついて純白の衣装を着て見せる(衣装・西原理恵)。これで、演出家も一本取られるわけだが、このあたりで、観客も降参する。
    二転三転する展開は次第に、いつ、女は男へ鞭を振るうのだろうというクライマックスへの期待へと変わっていくが、そこは見てのお楽しみだろう。
    高岡早紀は今までの見た舞台ではあまり印象に残ったことがなかったが、これは熱演。相手役の溝畑淳平も、いったん出たら出ずっぱりの長丁場を見事にこなす。さらにこの舞台は二階を組んだ装置(長田佳代子)、劇伴奏でなく音楽として芝居に噛んでいく音楽の国広和樹、さりげない照明(佐藤慶)のフォローなど、この劇場(トラム)がそのまま、現代の「毛皮のヴィーナス」になっている。演出は文学座の新星・五戸真理恵。新人ではないが、ここまでキャスト・スタフを(多分)おだてまくって芝居をまとめきれるところなかなかのタマで観客は今後に大いに期待する。客席完売だが立見席がある。昨日はそこも満杯で壁際の本当の立ち見客もかなりいた。しかし立ち見で観てもご損はない(オトナに限る)と思う本年屈指の舞台だった。

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    2022/08/31 12:07

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