実演鑑賞
満足度★★★★
青年団リンクの一つとしてユニット名のみ認識。近年は(一般客的には)活動休止にあったが突如出現し三日間4ステージ「三人姉妹」をやるという。主宰は四国かどこかへ転居して久しいとも書いてあったし、ここで観なきゃ当分観られぬかも、と彗星でも見に行くようなノリでアゴラ劇場へ赴いた。
三人で演じる三人姉妹であった。歌が多様され、カバレッド風のオープニング、リズム&ブルースぽいBGMで戯曲の色調の塗り替えが試みられていたり、他の役を三人に割り振り衣裳・小道具とその処理にも演出の主張が見られるが、人物そのものは本域で演じられ、三者三様の心情の発露に見どころのある(言わば通常の)「三人姉妹」の舞台であった。
装置は凝っており、濃茶系の木を基調に全体が細かなパーツで程よく埋められ、表に見えるブース的な囲いが左右に二つずつ、中央奥に出入口の枠があり、潜った所に台に置かれた水槽、中にはミニチュアの遊園地が遊び心に置かれ、暗闇の中では観覧車がライティングで浮かぶ(見通しの良い遠景を眺める気分に相応しい台詞、場面があり心境にフィットしていた)。水槽を右へハケる通路と、出入口の枠を潜らず下手へハケる通路、この二つは退出路でもあるが、隙間から引っ込んだ役者の影がうっすらと見え、また姉妹らが他の役に変わる場所にも使われる。勿論必要に応じて表の演技エリアでも堂々とゆっくり変装したりもする。
表側の各ブースはちょうど「楽屋」(清水邦夫の)に似合いそうな、各人が定位置に戻る場所となっていて、上手に一つ(イリーナ用)、下手に二つ(マーシャ、オリガ用)、上手の奥のそこは小テーブルがあり、長男の妻ナスターシャがやがて陣取る。
三姉妹の場所を区切っている壁の一部に嵌め込みガラス(材質は硬質プラスティック)が使われ、何か風俗通りにある女が座って身を晒す透明ボックスを連想させて意味深である。
先のナスターシャは次女マーシャ役が演じる。他、次女の冴えない夫と、イリーナに言い寄っているという中年男を長女オリガ役が、マーシャが恋をする将校役をイリーナ役が演じる。一瞬だがイリーナに言い寄るもう一名「体をくねらせる」変人の若い男はマーシャ役が演じる。
三人はそれぞれ自分の姉妹の相手役を、丁寧に演じる事によっていつしか三人にとっての最良の理解者となる。「姉妹に見える」事のためのそれは舞台作りにとって外的な要因だろうが、舞台効果の一つにも見えて来る。
休憩挟み二時間二十分、三人は時折甘噛みしながらもよく演じていたが、最後の場面から演出の意図だろう、異化が始まる。三人は身を寄せ合う立ち位置から、ふっと離れてそれぞれの生を演じる。時間経過の表現なのか、人は本当には理解し合えない的な含みの比喩なのか。施された細工の意図を役者が飲み込めてないという事なのか、表層的な演技が顔を出した気がした。
ラストの選曲も、迷うに違いない(迷っていてほしい)。曲調が左右しがちな場面であるが、ズルいと言われようが場をさらうキュートな曲を鳴らす。または、音楽を鳴らさずとも成立する形を作る。が、個人的希望である。