実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2022/08/12 (金) 14:00
ペシミズムを論じたチェーホフのこの短編は、当然ながらとても哲学的だ。物語の躍動感を期待してはいけない。どうしようもない亭主に付き従って生きてきた女性が、偶然に会ったかつての知人男性と駆け落ちする。こうした恋愛話が男性3人の間で繰り広げられる。どっちにせよ皆、死んでいくのに、何のために生きていくのか。演劇では多彩な切り口で表現されるような命題を、哲学的要素を前面に浮き上がらせている。
シンプルな舞台演出がよかった。ギターなどの弦楽器やピアノで奏でられた音楽がぴったり合っていた。役者たちの実力も十分だ。特に、人妻キーソニカを演じた石巻美香は流れるようなお嬢さま言葉の長台詞を難なくこなし、どきっとするような色気を見せる。
しかし、心に響くような何かを期待して地下の小劇場に入ったためか、消化不良感が強かった。結局「この世のことは何もわかりはしない」とつぶやくばかりでその恋が人生をどう変えたのかなど、まったくわからないままで終わる。そういう舞台なのだということは分かっているのだが。