私の下町〜母の写真 公演情報 Brave Step 「私の下町〜母の写真」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    不思議と観(魅)入らせる“力”のある公演。観劇日は満席、全回とも予約 完売のようで人気公演というのも肯ける。

    昭和初期(昭和11年)から終戦(昭和20年)までの期間を描いた人間ドラマ。時代背景を考えると もっと重苦しい内容になると思っていたが、意外と淡々とした庶民の暮らしに重点を置いた描き方になっている。敢えてそのような演出にしているのかも知れないが、軍靴の音が高くなり きな臭い情勢、更に戦争へといった時代背景を上手く取り込み、それでも東京のど真ん中で暮らす人々の逞しさが全(前)面に出ている。重厚イメージを持って観ると違和感を覚え、評価が分かれるかもしれない。しかし生き抜くことの大変さは十分伝わる。どんなに辛く苦しい状況に追い込まれても、明るく強かに生きる、それは今(いつ)の時代にも当てはまるのではないか。

    脚本・福田善之氏の自伝的な物語であるが、冒頭の案内にもあるように、記憶と言うには曖昧で、追憶という郷愁さもあまり感じられない。自伝とは言え、4歳から13歳という年齢では鮮明に憶えていないところも多々あるだろう。それでも、自分の家の隣近所を懐かしんで説明する、そこにこの作品に対する強い思いを感じる。主観を交えつつも、傍観者的に物語の案内役として、家族とその周りの人々を温かく見守る、そんなスタイルで紡がれる。
    (上演時間2時間45分 途中休憩15分)22.8.6追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央に下手から上がる横向きの階段があり二階へ通じる。上手・下手に黒板塀、「案内役」は上手客席寄りのスペースに座り、時々 舞台を歩き回る。また蓄音機やラジオも操作する。基本はシンプルな造作であるが、休憩を挟んで第一部は弓屋旅館の帳場、第二部は家族の住居(居間)となり、文机や卓袱台といった小道具や小物で場の違いを表現する。さらに季節の違い、例えば二・二六事件があった冬には火鉢などが置かれる。第二部の家族が暮らす所には障子戸が取り付けられる。そのほか細かな違いで時代の流れや季節の移ろいも感じられる。

    説明にある通り、「案内役」と称するひとりの男(磯貝誠サン)が古いアルバムの話を語り始める。昭和初期、東京 兜町にほど近い古綱町の弓屋旅館では、女将の甲野初(春風ひとみサン)と娘の友子(新澤泉サン)、息子の泰治や番頭の武田、女中たちが日々生き生きと暮らしていた。弓屋には、株屋・職業不詳・逃亡者といった怪しげな人たちが逗留し、色々な人間模様をみせていた。やがて、時代は日中戦争から太平洋戦争へ。戦時下、身を寄せ合い、助け合い、明るさを失わない弓屋の人々。しかし戦況は悪化の道を辿っていく。ついに空襲の目標となった東京下町にも爆撃機B29が飛来し…。

    直接、悲惨な戦争光景は描かれない。しかし戦中 戦禍は確実に人々の心をむしばみ、生活は軋み始める。生と死、希望と絶望の狭間を掻い潜ることで、より強い絆で結ばれていく。ユーモアを織り交ぜつつも、エッジの利いた公演。昭和初期の活気ある東京兜町、そして日中戦争の混沌とした状況、太平洋戦争 戦時下の不安や混乱を鮮やかに描きだす。

    この芝居では、歌や踊りが重要な要素となっている。歌は時代や社会を雄弁に語るもので、単なるアクセントではない。下手で役者が、ラジオ放送、大本営発表などを口語説明する社会情勢、一方 当時の流行歌やダンスシーンは世相光景といった違いを思わせる。社会性に富み人間(自伝)を綴った作品であると同時に、エンターテインメントとしても質の高い、観応えのある公演になっている。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/08/05 18:03

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