ミス・サイゴン【7月24日~28日、8月22日~24日公演中止】 公演情報 東宝「ミス・サイゴン【7月24日~28日、8月22日~24日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    西洋人の身勝手と日本女性の純愛という幻想を託した「蝶々夫人」を下敷きに、侵略軍の一員であるアメリカ兵とベトナム女性の愛を描く。考えるだけで、きわどい設定だ。とくにアジアの側から見ると。一体どういうものになるのかと、初めて観劇した。

    舞台やダンスは華やかで、音楽は多彩で美しい。「世界が終わる日のように」「命をあげるわ」「アメリカンドリーム」など、耳に残る名曲の数々。市村正親のオーラと愛嬌をまとったスター演技、高畑充希の透明感のある声、と初々しさ。と、予想以上の素晴らしい舞台である。セリフのない歌だけで物語る作劇は、テンポが速く、飽きさせない。あの有名なヘリコプターの場面が後半の二幕目にくるのは意外だったが、後半にヤマを持ってくる舞台作りのセオリーにはかなっている。

    では最初の疑問は、といえば、やはり最後まで拭えなかった。アメリカへ行くことが夢で、ベトナム脱出ばかりを考えるベトナムの主人公たちの姿は、歪んだ世界に咲いた徒花に見える。徒花でも美しいのだが。クリスのベトナム帰還兵としてのPTSDと、キムを捨てた罪の意識、人生をやり直したい意欲に、前向きのものが感じられる。そこはヒューマンなのだが、自分たちがベトナムに与えた被害への自覚(加害性の自覚)はほとんどなく、歴史的認識は浅い。つまりベトナム戦争を米兵にとっての悪夢の体験、アメリカ兵も被害者とのみ捉えている。ベトナム体験は振り返っても、侵略への批判でないところがエンタメの限界だ。
    戦後のベトナム国家を極単に強権的威圧的に描いているのも一面的すぎる。キムの(親が決めた)婚約者トゥイ=ベトナム軍将校を悪役に徹底させるのは、米兵たちの描き方と露骨に違う。根底には、自由をベトナムに与えようとしたアメリカの「大義」は間違っていなかったという意識がある。だからアメリカが負けてベトナムは権威主義国家になったと描く。欧米の中国観と同じ。ベトナム系米国人作家は、「ミス・サイゴン」のアジア人(とくに女性)蔑視を批判しても、戦後のベトナムの描き方は批判していない。それはアメリカの世界観・価値観自体は疑っていないからだ。



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    2022/07/30 18:03

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