映像鑑賞
満足度★★★★
前回あたりから気になるユニットだったが、配信にて初・アレン座観劇。(映像は定点のみ。風貌・表情は見えないが人物識別にさほど難はなく、物語の流れは掴めた。)
アジール街、と俗称される地区はその意味通り避難場所となっている。ちょうどトー横区域のように家族問題を抱えた女子が流れ着く場所であり、男も居るが、その経済の大部分は女子が売春で稼ぐ金である。だが、男らは女の経済に寄生しながらも、アジールが守られるために存在しており、微妙なバランスがうまく描かれている。一つには、女子たちに自己決定の余地がある事に拠る。物語の冒頭、主人公が母親とのこじれた関係を振り切って噂のこの街へやって来た日、男らは彼女らにここで生きる手早い方法を教え、選択をさせるのだ。一晩寝れば三日間宿が確保される、と。少女は逡巡するが、決断する。通常は物語のもっと進んだ時点で訪れる分岐点を、易々と越える。そして彼女は街に住む者たちの物語を目撃する。(彼女の目を通して街が現れる。)
力なく崩れ行く悲しいエピソードたちは、現実をある仕方で映したものと言え、力なく名も無き者の末期を「ただ見届ける」という態度の内にのみ彼らの連帯があり、しかしアジール街は結局その名前を返上する事になる・・その予感を強く残して終わる(人によっては光ある未来を思い描いたかも知れないが)。
架空の街の不思議な(現実に置き換えればグロい)ユートピアの象徴は、ホームレスの男(30代の想定か)で、彼は彼の元にやって来て話したい者たちの話を聴く、その代りに少額のお礼をもらい、生き延びている。彼が語る哲学がその来歴と深く結びついている事を周囲が段々と知る所となり、皆が彼との間に友情を感じ始めた頃、外部の「暴力」により彼は亡くなる。
この人物の存在により、作者が「アジール」に込めた願いを覗く思いがする。
女子たちの「声」が特徴的(現代的?)で、最初はこれで成り立つのかと訝ったが、演劇空間としても独特な世界が生まれていたように思う。