小林秀雄先生来る 公演情報 ハルベリーオフィス「小林秀雄先生来る」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    奇抜な本を旗揚げに選んだものだ。03年の初演で、オンシアター・系の乾電池系の壱組印が初演した原田宗典の本の再演。こういう本もなくはないが、虚実の混ぜ方が奇抜なのだ。
    昭和の末期、イタコもいるという東北の漁村は全村上げて文学村で、住人は文学者の先人の名前を持っている。文学雑誌も出していてその壱〇〇号記念号に東京から有名な先生を呼んで講演会を開こうということになる。漁をしている漁船の上での青年たちの合意である。
    招聘された文学者が東京でも有名で昭和を代表すると言われている批評家の小林秀雄先生(藤崎卓也)。偽者なのではないかと、青年たちも疑う中で、小林秀雄先生は、悠然と自己のスタイルを崩さず青年たちと酒を酌み交わし、フリッピン女性(稲村梓)の案内でいたこを訪れ、講演会に臨む。最後の「雑談」と題した講演が秀逸で、原文アレンジなのであろうが、合理・便宜主義より、知の鍛錬が必要、と言う論を諄々と説く。
    青年たちも村人もよくはわからないながらも聞かされてしまう。それは劇場の観客も同じでタイトルから年配が多いのではないかと想像していたが、ほとんど若い観客たちも呑まれている。ここは、小林秀雄を演じた藤崎卓也のお手柄で、さばけた人柄と同時に当時の主知主義を引っ張った小林の格調をよく演じている。
    芝居はここまで約弐時間。飽きずに見ているうちに、狐につままれたような感じで終わるのだが、ちゃんと謎解きもある。
    グループの旗揚げ公演でよくぞ、こんな埋もれていたヘンな本を発掘したものだ。確かに本は、形もよくはできていないし、何を言いたいのかキモがつかめない。だが、そこはエッセーの面白さで、見ている間は十分に面白い。あとであれこれ考える面白さも残されている。
    こういう一筋縄ではいかないカタチの悪い本はアングラから90年代まではよく小劇場で上演されていたように思う。竹内銃一郎(秘宝零番館)、生田萬(ブリキの自発団)大橋泰彦(離風霊船)。なんだか、彼らは、どこかで小林秀雄とも通底していたのかもしれない。
    ただ、小林秀雄も没後四十年アの権威も今の観客はほとんど知らないだろうから、宙を撃ったようなところもある。こういう埋もれた本の発掘を新しいグループの柱にするのも面白いかもしれない。そういう時代の変遷も含めて面白い公演だった



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    2022/07/07 10:45

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