実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/07/04 (月) 14:00
座席1階
2017年に劇団創立20年記念公演として上演された演目という。座付き作家の中島淳彦さんは当時まだ、ご存命。主宰の青山勝氏が1年勘違いしたために、あらためて記念公演の本を書かねばならなくなった中島さんは「20年記念のネタは去年全部使ってしまった」とぼやきながら書いたのだという。そうパンフレットにしるしてあるのだが、これが事実なら、いったい中島さんの懐にはどれだけのネタが入っているのかと感心する。
ネタに行き詰まっている主人公の小説家・梶山太郎をめぐる人たちの人間味あふれる笑いと涙の物語は、「ネタがない」なんてうそでしょ、と言いたくなる出色の出来なのだ。
梶山太郎は自分が行き詰まっていることを素直に認められず威張り散らしたり、怒鳴ったりという男なのだが、生活費を稼ぐために書いている児童書の連載も打ち切りを宣告される。また、これもアルバイト的にやっていた文化センターの文章教室も、自慢話ばかりする授業のため生徒数が激減、打ち切り通告に担当者が訪れていた。そんな小説家の妻は実は資産家なのだが、梶山のわがままを受け止め、ご主人を立てて付き従っている。妻の支えがあるのに文章教室の生徒である女性にちょっかいを出す梶山。物語は梶山の書斎に客人としてやってくるさまざまな人たちとの微妙な人間関係を浮き彫りにしながら進んでいく。
中島さんの本は、それぞれの登場人物の立場、シチュエーションやお互いの関係が絶妙で、その人間関係が縦横に走って物語に幅を持たせて飽きさせないというところがすごい。さらに、会話劇の中で言わなくてもいい「余計な一言」をそれぞれのキャラクターに言わせるなど、せりふを聞いているだけでも面白さ抜群なのだ。
出版社の編集者で「西城秀樹」という歌手と同姓同名のキャラクターを設定したのはご愛敬だと思いきや、ご愛敬だけでなく、携帯の着メロなどさまざまな小道具を駆使して笑いを取っていく。ラストシーンの大合唱はもちろん客席も参加し、あの名曲を歌ったのだ。満席の客席のあちこちから「あーおもしろかった」の声が聞こえてきそうな、そんな幕切れなのだ。
とにかく、自分が見てきた小劇場の作品で、これほどまでに脇役の登場人物たちに多彩な物語を持たせて存在感を示している作家は、見たことがない。
演出もテンポがよくて、すっかり魅了されてしまう舞台。「あーおもしろかった」と劇場を後にしたいなら、今はこの作品が一押しだと言いたい。