実演鑑賞
満足度★★★★
どんどん話がスライドしていく感じ。軸は、高校生だった双子の娘の一人を不良グループに殺された恨みにあるのだが、それを突っ込んでいくわけではない。戯曲本の解説は「作者はそこに感情移入しすぎないように最大限の注意を払っている」という。通奏低音のようなものか。娘を殺された以外にも、いくつもの悪や犯罪が次第にあぶりだされていく。
ホラー作家(堀部圭亮)と娘のキオリ(平野綾=すばらしい、はかなく魅惑的で底知れない)の住む瀟洒な海辺の家。この家に入り浸る巡査(坪倉由幸)、変なタクシー運転手(浜野謙太=好演、一番笑いをとっていた)、出所してきた犯人の一人、間宮(古川雄輝)、ファンを装ってきた主犯の姉(長井短)。一癖も二癖もある人間たちの、裏の顔が次々明らかになっていく。悲劇はほかにもごろごろ転がっていると言わぬばかり。そのうえ、加害者と被害者が逆転し、善と悪とがあいまいになっていく。この芝居の人間の中で、一番まともな人間が間宮に見えてくる。
音楽は私はあまりはなじめなかった。エネルギッシュな在日ファンクが芝居のトーンとあっていたかどうか。2時間半。残念ながら客席は1階の3分の2か。全体からすれば、5割の入り。ケラ原作というだけでは、アピールしないのか。前に見たパルコ劇場も4割程度の入りで驚いたが、ジャニーズやよほどの人気俳優でないと動員は難しいのだろうか。