ヤスミン・ゴデール「Singular Sensation」 公演情報 ダンストリエンナーレトーキョー「ヤスミン・ゴデール「Singular Sensation」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    汁気と色気
    3年前の2つの来日公演がどちらも面白くて、期待していた今回。やっぱりヤスミン・ゴデールは凄かった。このフェスティバルはまだ始まったばかりだけど、一つだけ見るとすればこれで決まり、といってもいいくらい。
    色彩的にも、ダンスの動きの面でも、記憶の容量をオーバーするくらいの情報と刺激が観客に向かって押し寄せてくる。

    ネタバレBOX

    舞台の床は真っ白で、両端が1メートルくらいの高さにめくれあがっている。奥には黒っぽい壁が立つ。
    白い床というのはその上にあるもの、小道具から衣裳まで、その色彩を浮き上がらせる効果がある。作り手はそのことを充分承知しているにちがいない、スパゲッティの黄色、ゼリーの赤、絵の具の黄緑などが非常に鮮やかだった。会場がこどもの城だということまで意識したとは思えないが、原色が際立つ色使いはきっと子供の目も引き付けただろう。ただし女性ダンサーの赤や黒の下着の色まで目に飛び込んでくるので、子供向けとはいえない内容かもしれない。

    音楽は振動音などノイズ系だったが、単に効果音というよりも、振付とかなりマッチしているように思えた。

    ダンサーは男が2人、女が3人。青いシャツを着た男1人を除いて、他の4人は途中で衣裳を替えた。だからたぶん、ドラマ的な設定としては青シャツの男が主人公で、他の4人は衣裳を替えた時点で別のキャラクターになっているのだと思う。チラシを見ると、コンセプト・演出・振付がヤスミン・ゴデールで、ドラマツゥルグというのが別にいる。どういう役割なのかはわからないが、この作品全体がドラマ仕立てだと考えていい証拠ではないだろうか。

    ゴデールの振付では顔の表情も非常に重要。舌を出したり、舌で頬を膨らませたり、泣いたり笑ったりもする。体の動きや仕草にも意味が含まれていると感じるのだが、通常のマイムに比べると、人物の性格や感情や気分を表現するという面が強いようだ。具体的な状況はわかりにくくても、相手との力関係などはよく伝わってくる。

    女3人を背の高い順に1、2、3、男は髭面と青シャツということにして、自分なりにドラマの流れを考えてみる。

    最初に登場する女たちはちょっと不良っぽい3人組。女1がリーダーで、女2は男好き、女3は下っ端。女2が青シャツを誘惑したのが女1にばれて、女1の知り合いの髭面が青シャツに制裁を加える。ここで青シャツは黄緑の絵の具を顔に浴びせられる。しかしそのまま引き下がることはなく、青シャツが反撃して髭面を倒し、さらに女1をも押し倒してしまう。

    青シャツは次に別の男女に出会う。ここでは女性優位が目立っていて、髭面は女3にストッキングを頭からかぶせられ、二人の関係にはSMっぽさが感じられる。さらに青シャツが筋肉マンに仕立て上げられてからの場面では、全員が乱交パーティーをやっているように思えた。

    要するに、青シャツがいろんな形の性体験を重ねていく、という展開ではなかったのだろうか。そして最後に、サングラスにコート姿の女2が実は露出狂だったというオチ。人が感じるいろんな形の性的な刺激、それがタイトルの「singular sensation」の意味ではないだろうか。

    出だしはけっこうおしゃれな空間なのだが、終盤になると汁気でいっぱいになる。ヤン・ファーブルの「主役の男が女である時」やゴキブリコンビナートの作品を連想させる湿り気だった。


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    2009/09/23 21:03

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