実演鑑賞
満足度★★★★★
文学座の持ち味の日常的リアリズムで描く人情喜劇。60年代の田園へのノスタルジーと、ここで生きるしかない人間の意地と、ここにないものへの憧れをともにくっきりと現出させて、しみじみといい芝居であった。
足の不自由な長男(腰塚学)と、都会で挫折して帰ってきた長女(磯田美絵)と、そして語り手である映画好きの浪人生の三男(武田知久)。三人三様の悩みやコンプレックスが次第に明らかになっていく群像劇である。母は死に、父(加納朋之)は農家をやめ土建業に。農業を一人で続け、一家を仕切る頑固婆さんが面白い。誰かと思ったら新橋耐子さん。「頭痛肩こり樋口一葉」の花蛍役ですごい女優と思って以来の再会だった。
長女を追ってきて、農業の手伝いで居候した学生(西村知泰)が家族内の異物であり、道化役であり、笑いを起こす。長男が恋してしまう団地の主婦(郡山冬果)も、田舎とは違うあか抜けた明るさをまとっていてよかった。私が感動した舞台を振り返ると、ホームドラマという共通点に思い当たった。ホームドラマの奥の深さ、人情を盛る器としての扱いやすさに改めて気づいた。