空の家【6月7日~8日公演中止】 公演情報 劇団BLUESTAXI「空の家【6月7日~8日公演中止】 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い…お薦め。
    日本のどこかで見かける親子の光景…老親の面倒は誰が見るのか、田舎の家をどうするのか、といった「介護」「空き家」そして今「コロナ」問題を情感たっぷりに描いた物語。

    親と子のそれぞれの観点、そして過去と現在を交錯させて 今の親子関係を分かりやすく展開させる。さらに親の立場は、主観と他者を介して激白させ観客の感情を揺さぶる。親世代にすれば、そうそうと頷けること、子世代には そうは言ってもと反発・反感しながらも、少しは親の気持が伝わるのではないか。押しつけがましい内容ではないが、やはり納得してしまう 力 のある公演である。
    (上演時間2時間 途中休憩なし)【Bチーム】

    ネタバレBOX

    舞台セットは、家族が住んでいた実家(田園風景が広がる山麓)の居間である。上手に床の間、掛け軸、下手も含めダンボールやごみ袋が雑然と置かれている。外は板塀前にネコ車が置かれ、いかにも田舎の家のよう。物語の進展にあわせ部屋の変化が時間の経過を表す。父・安藤和男(下出裕司サン)はケガをし入院、しかも認知症の症状もある。母・さち(矢吹凛サン) は亡くなり、4人の子供たちも独立して別場所で暮らしている。父は1人で広い家に住んでいるが、手入れが行き届かず荒れ放題になっている。子供たちの名前は春夏秋冬(春子-山口祐子サン、夏男-中澤隆範サン、秋子-杉山さや香サン、冬子-笠井渚サン)の一字が付けられ、四季折々の自然を思わせる。

    物語は、若き日の父と母がこの家を購入し 将来の生活に希望と夢を抱いているところから始まる。独居老人になった父、近所の人たちの助けや地域包括支援センター職員・横山菜々子(鈴木絵里加サン)の支援でなんとか暮らしている。しかし認知症のこともあり限界が…。
    子供や孫が来て家(居間)の掃除をしているが、近い将来この家をどうするのか。田舎ゆえか売却も難しく、取り壊して更地にしても固定資産税が重い負担として残る。しかし誰も戻ってくる気はなく、父との気まずい思いが甦る。子供にはそれぞれ都会に行って叶えたい希望や夢がある。父は、この家で子供たちと暮らしたい気持が強く、それに反発するかのように家を出た。その確執もあり、コロナ禍という状況を言い訳にして帰省しない。子の観点から、1人ひとりの事情を丁寧に描く。若い時の父(主観)は、家(制度)中心の考え方、長男は家を継いで云々。娘たちも手元において一緒に暮らしたい様子だ。子が反発する都度、母にお前はどんな教育(躾け)をしたのかと詰る。

    物語は、近所に住む父の弟・安藤武雄(大谷朗サン)を介した話から大きく動き出す。子を思う親の気持が切々と語られ、知らなかった父の優しさに胸が張り裂けるよう。親と子が向き合うことの大切さ、そして死は病だけではなく”孤独”も…。坂の下からこの家を見上げれば、空(そら)に溶け込んだような家。たぶん、空(カラ)の家とのダブル・ミーニングなのだろう。ラスト、父は生前の母に「この家はお前のものだ。心底惚れた女の家だ」は、この家で家族を成して行こうとする決意のように聞こえる。本当の物語はここから始まったのだと思わせる清々しさ。

    舞台という虚構の中に、日本のどこにでもありそうな問題光景を描き、幅広い年代層に共感をもって観てもらえる秀作。同じ家でも若い時と高齢になってからでは、住環境・条件が厳しくなる現実も突き付けることも忘れない。内容は重苦しいが、冬子の夫・島田修一(清水誠也サン)がコメディリリーフのような役割で軽妙さを出し、程良くバランスを見せる演出は巧い。
    キャストの少し作り込んだと思える演技は、後半になって滋味溢れる演技に変化し、物語の展開を誘い込む実に上手い表現だ。
    当日パンフに「ご来場のお客様へ」という主宰・青木ひでき さんの挨拶文が挿みこまれ、様々な事情があったらしいが「出演者たちは公演の実現を諦めず、ひたすら稽古に励んでくれた」とある。それを実現したかのようだ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/06/11 05:34

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