バケモノの子 公演情報 劇団四季「バケモノの子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第一幕70分休憩20分第二幕75分。
    最前列は3列目。

    細田守の2015年のアニメ映画を何故か今更ミュージカル化。
    当時映画館で観たが雑な出来で、「何でわざわざこれを選んだのか?」と不思議に。細田守作品はどこかで見たような話と設定にその場の思い付きのような適当な展開ばかりで、作品に文学性や哲学を感じる事がない。ただどう作品化するのか何となく足を運んだ。

    バケモノの暮らす街、「渋天街(じゅうてんがい)」と渋谷の街が実は繋がっていた。母親を事故で亡くした9歳の蓮(石黒巧君)は親戚達にたらい回しにされることを嫌い、一人逃げ出す。偶然出会った熊のバケモノ・熊徹(伊藤潤一郎氏)に付いて行き、弟子になることに。異世界で九太と名付けられた彼の望みは「一人で生きていけるように強くなること」。“強さ”とは果たして何なのか?がテーマ。

    猿のバケモノ・多々良役の韓盛治(ハン・ソンチ)氏がアニメ声で味がある。
    主人公の石黒巧君が大活躍、孤独に追い詰められた少年がバケモノの世界で自我を取り戻す通過儀礼を見事にこなす。このバトンを受け取ったのが青年期の九太(蓮)役・大鹿礼生(らいき)氏、流石に上手い!
    主人公の対となる存在、一郎彦役の笠松哲朗氏の横顔が尾崎豊似。

    しょぼい『キャッツ』のようなメイクで開幕、不安がよぎるも、舞台が渋谷に移ってからは素晴らしい出来映え。目眩く可動し回転する半透明のセットが渋谷のビル街の雑踏を見事に表現。プロジェクションマッピングではなく、組立式の立方体が変化変形トランスフォーム。無数の通行人達は流石に劇団四季のアンサンブル、一人ひとりキャラ設定があり、プロの味を披露するレベルの高さ。石黒巧君の負の影が実体化するシーンにはゾッとした。(真っ黒な子供が現れる)。熊徹と猪王山(いおうぜん)の対決シーンは香港の獅子舞を思わせるド迫力。九太に皆で料理を教えるシーンは、ミュージカルの楽しさに溢れている。

    映画を叩き台として、今の劇団でやれるアイディアを精一杯詰め込んでいる。漫画のコマ割りの額縁のようにシーンを細分化して分けていくセンスも良い。少なくとも映画よりは全然良かった。自分のような捻くれた人間には「あの映画でここまでやった」と云うのが高評価。

    「胸ん中で剣を握るんだよ!あるだろ、胸ん中の剣が!胸ん中の剣が重要なんだよ!」
    アナーキーの名曲、『心の銃』を思い出す。
    「俺達拳銃なんか持ってないけど
     戦うことを諦めちゃいやしないぜ
     心の銃を使って戦って行くのさ」

    ネタバレBOX

    クライマックス、白鯨のシーンが最高。無数のシャボン玉が客席に降り注ぐ。幾つにも分割されたスケルトンの白鯨のパーツが縦横無尽にステージを泳ぎ回る。対決時、ヒロインの楓(柴本優澄美さん)の存在は余りに意味がないので別の役回りに変更すべき。(映画内の無駄な設定も出来る限り変えるべきだった)。

    両親に捨てられた少年(離婚と死別)。
    尊敬する父親のようになれない少年(バケモノと人間の違い)。
    親に全ての選択を決められ言いなりにされているだけの少女。
    無力な子供達が溜め込んだ鬱屈した狂気が本当のテーマだろう。
    「何で全く自分の話を聞いてくれず、勝手な思い込みだけを押し付けてくるんだ?」

    “心の闇”とは、世界と自分への憎悪と否定のことで人なら誰もがそれを持つ。“心の闇”に支配されず、その存在を認め受け入れ共存すること。自己を肯定する為にも“胸ん中の剣”が必要となってくる。
    ラスト、主人公は“強さ”とは他者との絆だと訴える。(ここがイマイチ、ピンと来ない。共同体からの除け者は心の闇に堕ちるしかないのか?)

    世界観が「スター・ウォーズ」っぽい。ライトサイドとダークサイドの戦い。ダークサイド(暗黒面)は強大な力だがそれを許容すると自らが呑み込まれていってしまう。ラストの一撃はルークのXウイングがデス・スターを破壊した場面を彷彿とさせる。(その元ネタは『燃えよドラゴン』)。

    多分再演されなさそうなので、今回一度観ても面白いと思う。一応映画はチェックしておいた方が良い。

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    2022/05/12 00:35

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