実演鑑賞
満足度★★★★
今年も京都に来て下さったカトケンさん。今回は3日、4日の2日間の上演で、3日の公演を鑑賞。
今回の作品は4年前(2018年)に91歳で亡くなったアメリカの劇作家、脚本家のニール・サイモン(Neil Simon)が1972年に発表した「サンシャイン・ボーイズ(The Sunshine Boys)」。
ニール・サイモンは1927年7月にニューヨーク(New York)ブロンクス(Bronx)で生まれた。ニューヨーク大学(New York University)、デンバー大学(The University of Denver)で学び、第2次世界大戦中から喜劇の脚本を手がけ、1950年にテレビ番組の脚本スタッフの一員として採用される。1961年に「カム・ブロー・ユア・ホーン(Come Blow Your Horn)」でブロードウェイ(Broadway)デビュー。
以後、60年以上にわたって米国のエンターテインメント業界を支え続けた。ブロードウェイの舞台から映画、時にはテレビ番組に至るまで、彼の作品が上演されていなかった時期はほとんどなく、1960年代後半にはブロードウェイで同時に4作品が上演されていたこともある。手がけた戯曲の数は30本を超え、多数の名作喜劇を生み出し、米史上有数の成功を収めた作家。
1965年には「おかしな二人(The Odd Couple)」でブロードウェイで公演された作品対象に与えられるアメリカの演劇界で最も権威ある賞のトニー賞(Tony Award)の劇作家賞(Best Author (Play))を受賞、さらに1985年の「ビロクシー・ブルース(Biloxi Blues)」と1991年の「ヨンカーズ物語(Lost in Yonkers)」の2本で作品賞(Best Play)を受賞している。
また、脚本家としても1977年の映画「グッバイガール(The Goodbye Girl)」でゴールデングローブ賞(Golden Globe Awards)の脚本賞(Best Screenplay)を受賞した。1968年のジャック・レモン(Jack Lemmon)とウォルター・マッソー(Walter Matthau)の「おかしな二人(The Odd Couple)」や、1978年のマギー・スミス(Maggie Smith)がアカデミー(Academy Award)助演女優賞(Best Supporting Actress)を受賞した「カリフォルニア・スイート(California Suite)」など多くの作品を手掛け、この3作品と1975年の映画化された「サンシャイン・ボーイズ」ではアカデミー脚色賞(Writing Adapted Screenplay)にノミネートされている。
「サンシャイン・ボーイズ」は1972年12月20日にブロードウェイのブロードハースト・シアター(Broadhurst Theatre)でジャック・アルバートソン(Jack Albertson)とサム・レヴェン(Sam Levene)主演、アラン・アーキン(Alan Arkin)演出で初演。
アラン・アーキンは多才な人でミュージシャンや俳優としても活躍しており1966年のノーマン・ジュイソン(Norman Jewison)監督作品の「アメリカ上陸作戦(The Russians Are Coming, the Russians Are Coming)」とロバート・エリス・ミラー(Robert Ellis Miller)監督作品の「愛すれど心さびしく(The Heart Is a Lonely Hunter)」でアカデミー主演男優賞(Best Actor)にノミネートされていた。
近年はバイプレイヤーとして活躍しており、2006年のジョナサン・デイトン(Jonathan Dayton)、ヴァレリー・ファリス(Valerie Faris)夫妻監督作品の「リトル・ミス・サンシャイン(Little Miss Sunshine)」でアカデミー助演男優賞(Best Supporting Actor)を受賞、さらに2012年のベン・アフレック(Ben Affleck)監督作品の「アルゴ(ARGO)」でもノミネートされている。これは見たわ。映画プロデューサー役か。
1975年にハーバート・ロス(Herbert Ross)監督で映画化もされたが、日本では劇場公開されなかった。ウォルター・マッソー(Walter Matthau)とジョージ・バーンズ(George Burns)の主演。ジョージ・バーンズがアカデミー助演男優賞を受賞した他、主演男優賞、脚色賞、美術賞(Best Production Design)にノミネートされた。
1996年にはアメリカCBSテレビで「サンシャイン・ボーイズ/すてきな相棒(原題は同じ)」としてリメイクされた。ジョン・アーマン(John Erman)が監督し、ピーター・フォーク(Peter Falk)とウディ・アレン(Woody Allen)の主演。ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)が看護師役として出演しているがノークレジットだそうだ。
日本での初演は調べた限りでは1984年10月のテアトル・エコー公演。翻訳と演出が酒井洋子。主演は納谷悟朗と熊倉一雄。第39回文化庁芸術祭優秀賞と第19回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。1998年、2002年、2005年にも同じ2人で再演されている。
その他、1994年には東京芸術劇場で、小田島雄志・若子夫妻の翻訳、小林裕演出、名古屋章と仲谷登が主演で上演された。また、2008年にパルコ劇場で福田美環子翻訳、福田陽一郎演出、江守徹と西岡徳馬の主演でも上演された。
今回の翻訳はその東京芸術劇場版を翻訳した小田島雄志・若子夫妻の次男の小田島恒志と妻の則子の新訳。小田島恒志は英文学者、翻訳家で現在は早稲田大学文化構想学部教授。1962年生まれ、早大大学院博士課程単位取得満期退学、ロンドン大学大学院修士課程修了。小田島則子も英文学者で翻訳家で駒沢女子大学、目白女子短期大学講師。東京都出身で早稲田大学博士課程、ロンドン大学大学院修士課程修了。
今回の加藤健一事務所公演は元々は加藤健一事務所創立40周年と加藤健一役者人生50周年記念公演の第1弾かつニール・サイモン追悼公演として2020年5月に予定されていたもの。コロナ禍により上演直前に上演中止になったが、今回同一メンバーで復活公演となり、今年(2022年)3月初めに下北沢の本多劇場で上演、3月末の石川県七尾市での能登公演の後、京都にやって来た。この後は5月7日に兵庫公演、5月14日に所沢公演が予定されている。
加藤健一事務所でのニール・サイモン作品上演は、「第二章(Chapter Two)」、「おかしな二人(The Odd Couple)」、「銀幕の向うに(I Ought To Be In Pictures)」、「おお、星条旗娘!(The Star-Spangled Girl)」、「ブロードウェイから 45 秒(45 Seconds From Broadway)」に次いで6本目。
改めて、カトケンさんこと加藤健一さんだが、1949年10月静岡県磐田市生まれ。1968年、袋井商業高校卒業後、半年間のサラリーマン生活を経て劇団俳優小劇場の養成所に入所。1970年に養成所を卒業後、つかこうへい事務所の作品に多数客演し、10年後の1980年に加藤健一事務所を創立されたので、2020年がそれぞれ50周年、40周年だった。
この間、2004年には読売演劇大賞優秀男優賞を受賞、2007年には紫綬褒章を受章、その他にも菊田一夫演劇賞など多くの賞を受けている。毎年3、4本の公演を行っているため、映画やテレビドラマへの出演は限られているが、2016年の吉永小百合と二宮和也の主演した山田洋次監督作品の「母と暮せば」では福原母子の家に出入りする上海のおじさんを演じ、毎日映画コンクール・男優助演賞を受賞している。
今回の話は年老いたヴォードヴィドリアンの物語。なんと云っても元コンビのウィリーとアルとのやり取りがムチャクチャで面白いのだが、ウィリーの甥のベンとの絡みも見逃せないポイント。それと二人で演じる昔の大ヒットコントの再現シーンも見もの。アフタートークで主演の2人を演じたカトケンさんと佐藤B作さんが語られてたが、役者のお二人には非常に難しかったそうだ。
アルを演じた佐藤B作さんは1949年2月生まれなので現在(2022年5月)73歳。福島市の出身。早稲田大学商学部を中退し演劇の道に入り、1973年に劇団東京ヴォードヴィルショーを結成、現在も座長を務めている。本名は「砂糖と塩」ならぬ佐藤俊夫で、芸名は佐藤栄作元首相にちなんで付けたそうだ。3度結婚しており(1人目とは離婚、2人目とは死別)、現在の奥様は女優のあめくみちこさん。カトケンさんとは初共演とのこと。
現在NHK大河の「鎌倉殿の13人」で13人の一人、三浦義澄役を務めており、舞台だけでなくテレビでも映画でも欠かすことが出来ないバイプレイヤーだが、全国的に知られるようになったのは1982年からTBS系で放送された「週刊欽曜日」に出演してから。だよねえ。私はそのイメージが最初だったんで、アフタートークの時、「コント得意やん、B作さん」って思ってしまった。
ウィリーの甥でマネージャーのベンを演じた佐川和正さんは劇団文学座所属の舞台俳優。1975年11月生まれで愛媛県松山市出身。2002年初舞台。声優もされている。
テレビ局で倒れたウィリーがホテルでの静養中の付き添い看護師役を演じるのは田中利花さん。1952年8月生まれで、福岡市出身。1980年、ミュージカル「ヘアー(Hair)」のディオンヌ(Dionne)役で初舞台。2005から2009年は「レ・ミゼラブル(Les Miserables)」に出演、デナルディエ夫人(Madame Thenardier)役を演じ注目を集めた。
テレビ局でのコントでの患者を演じた照屋実さんは、1960年12月生まれで東京出身の宝井プロジェクト所属の俳優さんで、主に舞台で活躍されてる。同じくコントの看護師を演じたのは韓佑華さん。
そのコントのADを演じた加藤義宗さんはカトケンさんの息子。1980年1月生まれ。1996年の加藤健一事務所の「私はラッパポートじゃないよ」が初舞台。自身のプロデュースユニット「義庵」も2020年に立ち上げている。
あと声だけだが、テレビ局のディレクターを演じたのは文学座所属の清水明彦さん。1962年1月生まれで千葉県出身。舞台だけでなく、テレビドラマや映画にも出演されてる。2003年のNHK大河の「武蔵 MUSASHI」の阿部右京役など。
同じく声だけで、テレビのアナウンサーを演じてるのは加藤忍さん。加藤健一事務所俳優教室出身でカトケンさんの舞台ではお馴染み。1973年10月生まれで、神奈川県出身。彼女もテレビドラマや映画にも出ておられ、吹き替えの声優もされている。
演出は堤泰之さん。1960年愛媛県生まれ。東京大学教育学部中退。在学中よりオリジナルミュージカルを創作。1992年にプラチナ・ペーパーズを設立し、幅広いジャンルの脚本・演出を手がけている。 また、1995年にスタートさせたオーディションシステム「ラフカット」は、若手役者の登竜門となっている。
カトケンさんの舞台は2014年の「ブロードウェイから45秒」を皮切りに、「誰も喋ってはならぬ!」、「夢一夜」、「煙が目にしみる」、「Out of Order~イカれてるぜ!~」、「THE SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~」の演出を手掛けてきた。
上演時間は前半が1時間15分で、15分休憩の後、後半1時間弱の合計2時間半弱。前回の「叔母との旅」は結構難しい話で、さほど好みじゃなかったけど、この芝居は実にテンポのいい掛け合いでたっぷり笑わせてもらった。しかし、めんどくさい男を演じるのはカトケンさん得意だなあ~ 絶対に個人的には知り合いになりたくないキャラ ^_^
終演後20分ほど時間を空けてアルティ館長の雨宮章さんの紹介で京都公演恒例のアフタートークがスタート。今回はカトケンさんとB作さん。コロナ禍以降アフタートークの司会は雨宮さんが兼ねられていたが、今回は京都労演事務局長の土屋安見さんが復活。軽妙なやり取りで楽しませて戴いた。特に笑ったのはコント場面の話で、土屋さんが以前別の公演で見た時はコントになってなかったと云う話に、B作さんの「江守さんですか?」って云う突っ込み。
5時15分頃、30分ほどのアフタートーク終了。加藤さんの次回公演は8月に一人芝居の「スカラームーシュ・ジョーンズまたは七つの白い仮面」だが、京都公演は予定がなく、その次の「夏の盛りの蝉のように」が12月に予定されている。
今年(2022年)3月に92歳で亡くなった劇作家、吉永仁郎の作品で、葛飾北斎と彼の家に集まる人々の物語。北斎の娘、お栄も登場する。北斎がカトケンさんなんやろうな。これまためんどくさいキャラ、間違いない。キャストはまだ発表されてないが、楽しみ。
以上