実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/04/20 (水) 14:00
座席1階
この舞台を行ったアンフィニの会とは、演劇集団円の演出家・大間知靖子氏と同劇団の俳優二人が2010年に結成した。大きな集団でなく、小劇場での可能性を追求しているという。コロナ禍があったため今回は久しぶりの上演といい、フランスの劇作家ジェラルド・シブレラスの作品「ラクガキ」の本邦初演に取り組んだ。
マンションのエレベーターに何かで刻まれたような「バカ」の落書き。落書きでバカと名指しされた男性は妻と引っ越してきたばかりで、マンションの住人たちの部屋を訪ね回って心当たりがないかと聞いていくところから始まる。
そんな落書き、消してしまえば終わりなのにと誰もが思うが、男性が「書いたものが消すべきだ」とこだわり、それに対応する住人たちとの会話劇は予想外の方向に展開していく。隣人たちとの付き合いを大切にする穏やかな老夫婦たちだと思っていたら、舞台が進むにつれてその本性が出てくるというか、実は差別的な姿勢も見せたりする保守的な人たちだと分かる。一方の男性は理詰めでこだわりのある性格で、住民の老夫婦同様攻撃的な発言をしたりする。まあ、どっちもどっちなのだが、これが近所付き合いの妙とでも言うか、随所に笑えるところが満載の軽妙な会話劇なのである。
笑えるところがあり、客席は実際に笑うのだが、実はその笑いが自分に突き刺さってくるようなところがある。この会話劇、舞台を日本に変えてつくってみてはどうだろうか。一見、仲の良い隣人関係が実は冷徹なところがあって、隣人をこういう人だと決め付けて付き合いの輪からはずしてみたりということは、当たり前にあると思う。そういう意味で、一つの落書きから始まるこの物語は結構強烈なのである。
1時間45分の比較的コンパクトな芝居だが、濃密な会話劇に目も耳もくぎ付けになる。シンプルな演出も好感が持てる。