実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/03/25 (金) 14:00
座席1階
妊娠・中絶を真正面から取り上げた異色の作品。アンサンブルらしいメッセージ性の強い舞台となっている。
登場人物はすべて女性。石原燃の書き下ろしで、演出家も女性である。中絶は後ろ暗いもので、いけないことだというステレオタイプは、舞台でも何度も指摘されるように男性優位の家父長制の残滓が男性だけでなく女性にも残っているからだ。妊娠とはめでたいこと(おめでた)であり、授かった赤ちゃんをあきらめるのは駄目なことで、しかも中絶の精神的・肉体的負荷は全部女性が背負わざるを得ないという現状に、強烈な異議申し立てをしている。
物語は女子大学生が望まない妊娠をし、ネットで海外の中絶薬を検索するところから始まる。登場する女性はその母親世代、祖母世代とバランスが取れている。途中、ミュージカル仕立てになっていたり、奥行きのある広い舞台を縦横に使ったメリハリのある演出で、客席にメッセージを投げかけていく。
この舞台はこれで洗練され、完成していると思うのだが、やはり妊娠は男性が無関係ではない。もちろん、中絶に至る決断に男性が知らんぷりをしていていいはずはない。
中絶には相手方の同意書がいる(本来は必要ないのだが)というくだりで非協力的な男性の姿が示唆されるが、同じ「彼女たちの断片」を描くために男性も入れた方がよかったのではないか。
自分だけかもしれないが、男性として客席に座っていてとても居心地が悪かった。一方的に責められていると受け取った男性客もいたのではないか(拍手の大きさからいって、ほとんどいなかったかもしれないが)
いずれにしてもリプロダクティブヘルス/ライツでは諸外国に周回遅れの現状である日本。性教育を論じると保守系政治家から攻撃されるという情けない現状にあるということを知るだけでも、見る価値はある舞台だ。