実演鑑賞
満足度★★★★
北村想の人を食った喜劇である。
主人公はホームズばりの名探偵(井上芳雄)とワトソン役の友人(鈴木浩介)。二人が依頼された事件は山奥の迷いの森。そこは聖母マリアの奇跡の聖痕を与えられた女(滝内公実)がいて、そこをまもる神父(大谷亮介)によれば、洞窟にはマリアが現れるという。
探偵は事件の真犯人を、宗教は絶対の真実を人びとに明らかにしなければ存在理由がない。当然その論理の仕掛けには現実的にはムリが出てくる。そこへ四方八方から突っ込みを入れながら、迷いの森の真実が解き明かされる。もっともらしい解説も、引用もあるが、そのネタのすべてを観客が知っているわけもなく、時に上滑りしてしまうのはやむを得ないのだが、それでもいいのである。1時間45分、大人のエンタテイメントだと見定めてしまえば、歌のうまい主役が三曲も歌ってくれるし、スタイルとセンスのいい動画映像を駆使するマッピングはあるし、遂にはマリア様がホログラムで現れる。会話もギャグも今風の罵詈讒謗型ではないので、笑って楽しめる。ピローマンから一転、演出の寺十吾は娯楽作品もそつなくうまい。
しかし、どこかで知った記憶があるが、この作者、独立派のキリスト教信者で、処女作の「寿歌」では、人間は最後に聖地に向かう。神とか、無謬の名探偵とか絶対的なものをあれこれと求める人間の弱さの裏つけの上に出来ているところが、北村想作品のユニークな面白さなのではないだろうか。
600席もある世田パブで35公演。シスカンパニーも度胸がある。