実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/03/18 (金) 13:00
座席1階
マーティン・マクドナーの作品は、2016年にホリプロ版の「イニシュマン島のビリー」を見たことがある。孤児で足が悪いビリーと、その幼なじみのヘレン。ヘレンを演じた鈴木杏が生卵を頭でかち割るなどの暴力的なシーンを鮮明に覚えている。今作「ピローマン」もすさまじいほどの暴力、拷問、虐待の場面が続く。個人的な見方だが、両作で共通しているのは、理不尽な状況に置かれている障害を持つ登場人物の、何か真っすぐに光を求めているような心なのだ。それを感じるから余計に、暴力的シーンが際立った「理不尽」として浮かび上がる。
知的障害の兄と作家を目指す弟。弟は多くの作品を仕上げているのだが、それは子どもが凄惨な虐待を受ける物語で、兄はその筋書き通りに子どもを殺害したと警察に自供し、弟も取り調べを受ける。拷問が当たり前のように行われ、警察が罪を断罪して処刑することもあるような強権国家が舞台だ。そういう「設定」なのだが、なんだが現代社会にも共通する空気に満ちているような感じがして、見ている客席の胸を突き刺す。「イニシュマン島のビリー」でもそんな空気の存在がうまく描かれていたと思う。
ラストシーンに至るまで息の抜けない場面が連続し、胸が苦しくなる。逆に言えば、客席にそう感じさせている役者たちが見事だということだろう。主役の作家(弟)を演じた渡辺穣も膨大なせりふをこなす力業を披露しているし、官僚的、暴力的という対照的な二人の取調官を演じた俳優も徹底してその役回りをこなしていた。客席に異様なまでの緊張感が生まれていたのは、やはりこの演劇集団の力量によるものだ、と思う。