実演鑑賞
満足度★★★★
ここ、新橋演舞場とか明治座のように、千席以上の大きな劇場で多くの観客を集めなければならぬ演劇を製作し続けるのは本当に大変なことだと思う。それは、若い情熱で走り始められる小劇場の演劇とも、長い歴史に支えられた伝統演劇や宝塚歌劇団とも、公共劇場とも違う演劇観が必要な世界なのだろう。
「陰陽師・生成り姫」は、新橋演舞場で松竹の制作。関西でも上演されるから、この時期慎重にならざるを得ない。集客が最も安定しているジャニーズ頼みのキャスティングは仕方がないにしても、どういう芝居が興行的に成功するか、演劇部は大いに頭を悩ませるところだろう。
素材は陰陽師、平安時代を背景にした王朝ファンタジー・ロマンだ。前例豊富と言う世界でもない。夢枕獏の原作をマキノノゾミの脚本は大劇場向きのスペクタキュラーなドラマに仕立て上げた。筋立ては、陰陽師の安部晴明(三宅健)と源博雅(林翔太)の友情を敷いて、その上に博雅と徳子姫(音月柱)との音楽を仲立ちにした恋物語、安部晴明と蘆屋道満(木場勝己)との陰陽術競べ。さらに時の施政者である藤原清時(姜暢雄)のコミックなダメぶりが引き起こす混乱など、かなり複雑なストーリーが展開する。
演出の鈴木裕美は、この物語を音楽、ダンス、劇場機構を使った技術、さらには美術、衣装などを総動員して和製ファンタジーを飽きずに見せ切ってしまう。そのためには、音楽はナマの西洋音楽だし、陰陽師の起こす仕掛けをコンテンポラリーダンス風の踊りで表現しもすれば、フライイングもある。舞台美術も衣装も視覚的で、あまり時代考証にとらわれていない(しかし、道満と蝉丸の衣装の色調とコンセプトが似ていて、時に錯覚する)。
役者ではジャニーズの林翔太が健闘で、晴明との若い友情が物語を支える。笛と提琴の恋物語も、その後のミステリアスな展開も、小劇場出身のマキノ・鈴木の息があって青春ものの味がする。変な翻訳劇を見つけてきて皆が分からないままやっているスター興行に比べると、随分苦労してまとめている。例によって女性客ばかりだが、年齢層は広く、ほぼ満席だったのは以って瞑すべしか。35分の休憩を入れて三幕3時間半。たっぷり!(と言う掛け声も聞かれなくなったが)