実演鑑賞
満足度★★★★
若い作家が歴史上の事件を舞台に上げることが多くなったように感じる。
これは、130年前の朝鮮王朝の王妃暗殺事件を素材にしたシライケイタの作。歴史劇では先鞭をつけた古川健が意外なアングルから歴史に光を当てて人間像を描くのに対して、こちらは正面から直球一本。当時のかなり複雑な国際情勢や日韓の国内の事情も分かりやすく、登場人物もよく整理されていて、2時間のコンパクトな歴史ドラマになっている。その中に、親子の情愛溢れる短いシーンとか、国民歌であろうアリランを織り込んで、温泉ドラゴンではどこか不器用なところがあったシライケイタ、なかなか筆達者になった。芝居として見れば、歴史を知らない観客も釣り込まれる裏切りと反逆の王宮陰謀劇になっている。歴史に翻弄されるそれぞれの人間像もよく描かれている。
若い演出の金沢菜乃英も、上手に宮廷の御簾を置いたシンプルなワンセットでテンポよく全場を裁いてダレない。出演者も、こういうドラマになると層の厚い青年座の地力が出た。
中でも、物語の軸になる王妃(万善香織)と夫の高宗(若林久弥)その子で語りても務める世子(須田祐介)は、陰謀の中で孤立する親子の情感を巧みに出していて、好演、新人にしては舞台度胸があるなぁと見ていたら、みなベテランではないか。大院君(津嘉山正種)をはじめ周囲の日韓の敵役もみな一癖をうまく演じている。芝居としては楽しめる出来になっているのだが、単純にそう言えないところが、こういう歴史素材の難しい所で、近代になってから日韓関係のこじれはこの事件を日本側が仕組んだところから始まる、と言われているくらいだから、このドラマについても議論はいくらでも立てられるだろう。
ドラマは、よくある空疎なお題目を並べてケリをつけたりしていないでいるのはいいが、単純に面白いというにも後ろめたいところがある。そこが近い国同士の近親感情かもしれないが、そこへあえて踏み込んだところを評価したい。青年座、なかなかやるじゃないか。